第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

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 ガイアノスはこちらを欲望に満ちた目で見てくる。  完全にわたしを狙っている。  これまでも最低な男だと思っていたが、それより屑な男だと評価を改めなければならない。 「競技中なら事故があっても仕方ないよな!」  ガイアノスは金と黒が体の中心で分かれている黄黒竜に乗ってこちらへ単身で攻めてくる。  わたしを守る騎士たちを一人で吹き飛ばしていった。  そしてわたしの近くまで来て、そのトライードを斬りつけてきた。 「マリアさま!」  わたしへの攻撃をルキノが止める。  たとえ魔力的に負けていようがルキノは騎士としての訓練を受けているので、そう簡単にはやられない。  だが技量の差を笑うかのようにトライードから魔力を溢れ出せ、風圧がルキノもろともわたしを吹き飛ばした。 「きゃあああ!」  わたしはマリアーマーと共に吹き飛ばされて、地面へと転がると共にマリアーマーから身を投げ出された。  限界まで身体強化したルキノがわたしが地面に着く前に掴まえた。  ルキノもホッと息を吐いた。  だが絶望的状況は変わらない。 「姫さま、すぐに行きます! 貴方達、早く突破しなさい! このままだと姫さまが!」 「分かっていますが、相手が強すぎる!」  わたしの側近は未だに敵の包囲を抜け出せていない。  ラケシスがカオディを急かしているが魔力の差が大きすぎて防戦一方である。  このままでは試合が終わる前にガイアノスによって何をされるかが分からない。  わたしは恐怖で震えながらも、この男にだけは屈したくない。  その思いで体に力を入れて、側近達に命令する。 「わたくしがこの男を抑えます。その隙に人形に魔力を入れなさい!」  わたしはチームの者たちを信用して、返事を聞く前にマリアーマーの方へと走った。  だがそれを許すガイアノスではない。  すぐに回り込んでわたしへ狂気に満ちた顔を浮かべながら、トライードを振り落とした。 「マリアさまに攻撃は許さない!」  ルキノはわたしを守るためにトライードで防戦した。  だが圧倒的な魔力の前にルキノといえど耐えらない。 「キャァア!」  一瞬で吹き飛ばされて、わたしは一人取り残された。  誰も助けてくれる者はいない。  ガイアノスはもうわたしを傷付けることしか考えてない。  下舐めずりをするその姿に嫌悪と恐怖がやってくる。 「俺を馬鹿にするやつはこういった末路を辿るんだよ!」  そのトライードはわたしの顔へと振り落とされた。  完全にわたしを傷物にして、結婚できないようにするつもりであろう。  貴族の令嬢として、顔と身体は資本であることは誰もが知っていること。  それを傷つけられればウィリアノスとの婚姻どころか縁談すら来なくなるだろう。  わたしは目を閉じて痛みに備えた。  剣がわたしに当たる寸前で身につけているネックレスや指輪が危険を察知して発動した。  振り落とされた軌道上に障壁が出現して、ガイアノスの剣を受け止めた。  かなり高価な魔道具なだけあり、ガイアノスの一撃を完全に防いだのでその隙にわたしは走り出した。 「もうほとんど壊れてる」  魔道具はほとんど破損しており、指輪はポロポロと地面に落ちていく。  威力によって使われる魔道具の数も変わるため、それほどの威力だったのだ。 「さすがは過保護に守られているな、なら何度でも攻撃すれば問題ないだろぉぉお!」  ガイアノスもすぐにこちらの追撃を始めた。  マリアーマーまで着く前に完全に追いつかれる。  ブワァっと風が横切った。  逃げることに集中していたので水竜がわたしの横を高速で通り過ぎたことに全く気が付かなかった。 「マリアさまに攻撃をしているのはおまえかぁああ! 」  わたしはその声に振り返ってしまった。  まだ眠っていると思っていた、わたしの騎士の声が聞こえたからだ。  まだ子供っぽいやんちゃな雰囲気しかなかった男が今は顔に憤激の色をみなぎらせていた。 「っヴェルダンディ!」  ヴェルダンディは眠る前と同じ姿でここへとやってきた。
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