第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

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 やっとのことズクミゴも立ち上がった。  先ほどとは違って怯えた顔でこちらに媚びへつらうように揉み手を始めた。 「こ、これは大変失礼しました。今までの無礼は本当に失礼しました。先ほど手に入れた金貨の二倍出させていただきます。どうか今回の件は……ひいい」  ヴェルダンディはトライードの切っ先をズクミゴの首元へ添える。  少しでも動かせば彼の胴体と首は別れることになるだろう。 「わかっておりませんね。たかだかそれくらいのお金で五大貴族であらせられるマリアさまにお許しいただけるとお思いですか? ですが、マリアさまも三つだけ条件を出された。もし生き残りたいのならわかってますね?」 「わ、わかりました!」  ズクミゴは泣きべそをかきながら声を出している。  クロートは言葉を続けた。 「まず一つ目は、再度ゲームを続けさせていただいてその結果で生じるお金を頂くこと。マリアさま、番号を言ってください」  ここでまた続けさせて金貨約一万枚を取ろうとするとは、クロートが敵でなくてよかったとしみじみ思う。  しかし、どうやって彼らに払わせるつもりなのか。  わたしは言われるままに番号を考える。 「それでは一番でお願いします」  お店の人もビクビクしながら回転盤を回して、ボールを投げる。  そして、見事一番にボールが入った。 「ふむ、では金貨約一万枚の準備をお願いしますね」 「む、無茶な! そんな大金なんて用意できませんよ! 」 「なら稼げばいいのですよ。もう少し期限を設けますので、ここを本来のホテルとしての顔を強めてもらいます。経営にはわたしが入りますので契約書をもってきなさい。カジノについてはジョセフィーヌ領の管轄に入ってもらいますのでもう少し健全化します」  クロートはテキパキと命令して、事実上わたしがこのカジノの責任者となった。  だがこんな汚らしい場所をわたしの物にするのは少しばかり評判を貶めるものではないだろうか。 「ご心配なく。ここはこれから上級貴族以上しか泊まれない高級ホテルとして、貴族しかカジノにも参加できないようにします。そうすればすぐに収入も安定しますので、いい財源となるでしょう」  もともとそういう計画だったのだろうが、うまくわたしを使われているような気がします。  わたしの考えに気付いたのかクロートは苦笑して弁明した。 「姫さまには息抜きをしてもらいたかったのですよ。後ろめたい気持ちではなく、楽しい気分で。まあそれはあまり上手くいきませんでしたがね」 「ええ、もう二度と来たくないですね。変な男の相手なんてしたくありませんもの」 「次は姫さまも楽しめるよう嗜好を凝らしますので、ぜひお楽しみにしてください」  なぜそこまでわたしにカジノで遊ばせたいのだろう?  しかし頭の良いクロートなら面白い余興を作ってくれるかもしれない。 「なら楽しみにしております」 「かしこまりました。……では次に二つ目ですが、犯罪組織についての情報を出しなさい。ここにいる者たち全員がその癒着がある貴族だというのは調べがついています。もし言わないようでしたらそれでも構いません。国に敵意があると考えて、三親等まで神へ魔力奉納していただくだけでございますから」  クロートの言葉にこの場に遊びに来ている貴族たちが観念している。  どうやらこのカジノを選んだ理由は、犯罪組織についての情報も得るためだったのだろう。  そこでわたしもいろいろなことが結びつく。 「もしかして薬物や武具の過度な流通ってこの犯罪組織が?」 「噂をご存知でしたか。そうです、ここで根絶やしにしておかないと領土にとって癌にしかなりません。情報が集まり次第駆逐します。 その時は姫さまにもご協力いただきますのでそのつもりでいてください」 「お父さま主導で捕まえるのではないのですか?」 「はい、姫さまの実績作りにも利用しましょう。姫さまの場合は魔物を倒して自身の武勲で民に存在を知らしめることができませんので、地道ではありますが、当主になるための土台作りです」  どうやらわたしの実績があまりないことを心配して、手柄をくれるということだろう。  わたしではそういった政治的なことはまだ勉強不足なのでクロートに任せよう。  しかし自分もいつかこのように自分で政治的判断を下せるようになるのか心配になる。 「姫さまなら大丈夫ですよ。少しずつ覚えていってください」  クロートはこちらの考えを見通して励ましてくれる。  そのために教師としてクロートやピエール、そしてサラスも来てくれたのだ。  より一層頑張らないといけない。 「最後の条件ですが、下級貴族ならば平民の大商人たちと関わりも大きいでしょう。今後マリアさまが何かしら良い行いをするごとに噂をばらまくようにトップに依頼しなさい。もし今言ったことが他にバレたりしたら、商人はもちろん、あなたたちもわかっておりますよね?」  クロートの黒い笑顔にみんなが泣きながら頷いた。  貴族全員と名前を控えて、今後にやるべきことを命令していく。  わたしは金策しか頭になかったが、それ以外にも収穫を得るなんてさすがはお父さまの文官だ。  ヴェルダンディもその手際に感心していた。 「俺も今回上手く立ち回ればマリアさまの体にあの汚い手が触れさせることもなかった。俺ももっと上に行かないと」  独白をして何かしら決意を改めたようだ。  その後馬車に乗って、王国院に戻ってきた。
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