第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

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 シュティレンツへの出立日となり、馬車の前で側近全員とシュティレンツの領主候補生であるエリーゼが集まっている。  カオディに付いてきてもらう予定だったが、エリーゼからぜひ一緒に向かいたいと志願してくれたのだ。  今回は一部の者たちはジョセフィーヌ領へ戻ってもらう。 「リムミント、アスカあとは頼みましたね」 「かしこまりました。ジョセフィーヌに蔓延る膿を取り除いてみせます」 「わたくしも出来るだけ補佐しますので、任せてください」  リムミントとアスカはジョセフィーヌ領に戻って犯罪組織を追い詰めることになっている。  好ましくない密売をしているらしいので、摘発してその稼いだお金を徴収することで少しでもお金を手に入れるのだ。  お父さまの私兵も力を貸してくれるらしいので、もし戦闘になっても大丈夫だろう。 「エリーゼさんもごめんなさいね」 「いえ、気にしないでください。マリア……お姉さまの頼みですから」  エリーゼは嬉しそうに顔をにやけさせている。  わたしはなぜアリアにお姉さまって言わせたのだろうか、と過去の自分を責めたい。  たしかに呼ばれるとうれしいが、数が増えすぎると何とも言えない。  もちろん嫌ではないが、むず痒さがあり、あとは慣れるしかないのかと自身の迂闊さを呪うばかりだ。 「ホーキンス先生も参加ありがとうございます」 「いえいえ、蒼の髪のためなら何処へだって付いていきます」  寝不足な顔にも関わらずどこか生き生きしているが、この人はいつ授業をやっているのだろう。  そろそろクビになるのではないだろうか。  まあ、ホーキンスの場合は色々と頭が回るようなので上手くやっているのだろう。  あまり学校の勉強を疎かにしてはいけないので、ヴェルダンディとルキノ、そしてディアーナは残ることとなった。  成人しているセルランとステラは問題なく付いていけるが、ラケシスとレイナはわたしの行動を察して先に予習を済ませているらしい。 「姫さまの伝説を見るためなら勉強なんて苦ではありません。何処へでも付いていきます」  ラケシスのその熱意はホーキンスのようである。  だがわたしのためにここまで頑張ってくれているので、いつかはこの想いに応えてあげないといけないとは思っている。 「サラスさまにばかりご負担をかけるわけにはいきませんもの。わたくしもお供いたします」  レイナの真面目さもここまでくると相当なものだ。  慣れない侍従を連れるのは心的負担があるのでわたしは助かる。 「二人とも同行ありがとう。この旅が終わってから数日休暇を与えますのでゆっくりしてください。下僕もごめんなさいね」  下僕も本来残させる予定だったが、クロートからぜひ連れて行ってほしいとのことで同行させている。  帰ってからの教育はクロートが行うので支障はないようにするとのことで同行を許可した。 「いえ、まだまだ文官としての力量はリムミントには遠く及ばないので、少しでも実戦経験を積めるのはありがたいです」 「六番の成績はかなりのものですから、座学はすぐに追いつきますよ。先生として保証します」 「さあ、姫さま。あまり長話はやめましょう。少しでも早く帰らないといけないのですから」  下僕はまだまだ上級貴族相手への交渉が弱いため、クロートのそばで色々学んでほしいとは思っている。  サラスに急かされる形となり、わたしたちは馬車へと乗りシュティレンツへと向かった。  数日間、ホテルへ泊まりながらも馬車に揺られながら問題なくシュティレンツの領主の城がある都市へとやってきた。  門から入っていくと街には至る所に大釜が置いてあり、一生懸命大きな棒でかき回している。 「久々訪れましたけど、やっぱり誰もが錬金術に夢中なのですね」 「そうですね、偉大なる錬金術士にこういう格言があるそうです。“賢者は無知を知った後に産まれる“、まだまだ字を読めない者でもフラスコの目盛りが分かればあとは教わった手順で同じ物が作れます。そのおかげでシュティレンツでは知識欲が凄まじく、貴族と平民は全員が知を探求していると聞いております」  下僕が饒舌に語っていることはこの場を見ればわかる。  誰もが嬉しそうに釜の中を覗き込んで、その結果を一喜一憂している。  錬金術は特別な魔法がなくとも行えるので、あまり貴族では重宝されないが平民からは好まれる技術だ。  魔道具の方が魔法を付与できるので強力になりやすいため貴族からは魔道具学の方が重宝される。  特に魔力量で大きく出来上がる品質も異なるので、一種のステータスともなるのだ。  しかし魔導アーマーのような物は細かな設計すぎて魔道具として作れないらしい。  最後に魔法を付与しているが、効率よく伝導するに錬金術士によって計算されているからできるのである。 「マリアさま、これから領主の城へ向かいます。今の領主は少し気が弱いですが、真面目な方です。しかしその周りの貴族たちはそうではない方も多いです。気をつけて下さいませ」  セルランはわたしを心配して言ってくるが、子供の時のように一人で出歩いたりはするつもりはない。 「大丈夫ですよ、わたくしには貴方がいますもの」  セルランへ信頼の言葉を伝えると肩を竦めて了承してくれた。  城の前まで行くとシュティレンツの領主、アビ・シュティレンツがわたくしを出迎えてくれた。  全員が降りてからわたくしが代表して挨拶をする。  お互いに神に対しての言葉を伝えた。 「このたびは急なお願いに応えてくださりありがとうございます」 「マリアさまのお頼みでしたらいくらでも応えさせていただきます、はい。それに今回の目的は我が領土の伝承を紐解いてくれるのです、はい。パラストカーティの噂を聞いて今日のこの日をどれほどお待ちしましたか、はい」 「まだ何も分かっていないですから期待に添えない時は申し訳ございません。では今日からよろーー、きゃっ!」  至る所から蝶々が現れて、城壁のある一点目掛けて飛んでいく。  壁に衝突したはずなのに、通り抜けているかのように消えていっている。
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