第二章 騎士祭までに噂なんて吹き飛ばしちゃえ!

34/55
前へ
/259ページ
次へ
「それならばわたくしが姫さまに教えます」  ベッドに寝ていたラケシスが突如声をあげた。  どうやら意識を途中から戻していたようで、わたしたちの話を聞いていたようだ。 「ラケシスがですか。侍従見習いであれば帳簿に関しては大丈夫でしょうが、経営に関してはわかりますか?」 「わたくしが分からずともそれに詳しい知り合いはいます。姫さまが頑張ろうとしている時にただ後ろを付いていくだけの侍従に何の意味がありますか!」  ベッドから体を起こして勇ましく腕を上げているがどうも格好がついていない。  ラケシスの経営の知り合いとはどんな人物だろうか。 「ではラケシスから帳簿について教わりますので、ホテル業の資料だけは後でください」 「かしこまりました。弟に犯罪組織の件は任せておりますので、二日後には行動を起こすと思います。それで先ほどの会議でおっしゃっていましたが、どうやって組織を支配するのですか? ただわたしは合わせただけでしたので、方法については伺っておりませんゆえ」  そういえばあの場で適当に言ったことなので、あまり考えていなかった。  だがわたしが提案した手前、無い知恵を絞り出す。 「そういえばクロートは変化の杖を持っていましたわよね?」  カジノを抜け出す時とステラがセルランに化けた時に使った杖だ。  希少な物であるのでそう何度も使う物でもないが、クロートから許可が下りれば使える。 「ええ、あります。それを……ああ、なるほどそう使うのですね」  クロートはわたしが言う前に気付いてくれたようで、特に異論はなさそうだ。  あとはその作戦をどう組み込むかだけである。  その後情報収集や勉強を進めながらすぐに二日が経ったのだった。  今回の計画の立案はリムミント、アスカ、下僕、わたしであり、クロートにも最終確認をもらって今回の計画は実行されることになった。  場所はジョセフィーヌ領第二都市ラングレスに潜伏していることがわかった。  騎士団を数名ずつ包囲させながら、バレないように慎重にことを進めていく。  わたしも今回は現場で指揮をする立場にあるので、念のためお父さまの鎧と比べると数段落ちる鎧を着ている。  一応色付きなのでそこらへんの騎士よりは良いシロモノだ。 「マリアさま、準備は整いました」 「お疲れ様、リムミント。しっかり逃げ道は作ってありますね?」 「問題ございません、今回はある程度の殲滅と組織の管理になります。クロートとも話をしたのですが、この組織はマリアさまの勉強教材に使う予定ですので、一生己が行なった罪を償ってもらいましょう」  リムミントは黒い笑顔を作りながら、これからの彼らの末路を思い描いているようだ。  わたしたちの領土にこれ以上危険を呼び込む害虫などいらない。  変化の杖を握りしめて作戦決行を待った。 「本当にマリアさまも行かれるのですか?」  セルランが心配そうに聞いてくる。  今回の首謀者のわたしたち個人で乗り込む。  今後のことについては、わたしが商人の真似事をするようなものなので、あまり他の貴族に知られるのは外聞がよろしくない。  おそらくトップにはかなりの護衛が付いているので、前みたいに騎士たちが返り討ちにあった時のように罠があるかもしれないため、わたしの身を気にしているのだ。 「今日はセルラン、ステラがいるのですから何を心配するのですか。それに他のみんなもわたくしを守るために居てくださるのですから、これ以上安全な場所なんてありません。ですが、やり過ぎだけはダメですよ。今回の作戦は明日以降に繋がることなんですから」 「これ以上は意味はないですね。分かりました。念のための確認です。では行きましょう」  セルランは懐から小さな玉の魔道具を取り出して、空高く放り投げる。  すると、空で玉が弾けて大きな音を上げた。  それは作戦開始を始める音だ。  わたしが全員の気合を入れるため、掛け声を上げた 「マリア・ジョセフィーヌの名において命じます! 全員突撃!」  セルランとステラを先頭に店の前を守っている用心棒を反応する暇もなく気絶させて大店へと入っていく。  五階建てのお店で一階は一般向けのようで、数多くの平民たちがわたしたちを見て驚愕していた。 「き、貴族さま!?」 「きゃああ!」  部屋中がわたしたちが入ったことでパニックになっている。  しかし、セルランはこういったことには慣れているようで、普段聞かない低い声で簡潔に伝えた。 「喋るな、次喋った者がいれば問答無用で殺す。少しでも怪しまれたくないのなら、許可を出すまで床に這いつくばっていろ」  平民たちは貴族に逆らってはいけないことを知っているので、お店の従業員含めて全員が床に伏せた。  これで完全に一階は制圧したので、二階、三階と同じように制圧した。 「ここまでは特に問題はないようですが気をつけてください。流石にこの騒ぎになれば気付かれているでしょうから」 「分かっている。わたしがいる限りどんな妨害も防いでみせる」  クロートの確認は不要であるとセルランは手を振った。  セルランとステラ、クロートは四階に上がってから各部屋を慎重に開いていく。  どちらもこういった罠には慣れているようですぐに確認を終えていく。  残るのは大きな部屋だけになっていた。 「どうやらあの部屋で立てこもっているようだな」 「では片付けましょう」 「……え?」  セルランが結論付けたと同時にわたしが喋ったので、わたしの方を見た。  わたしはこれまでの怒りを込めて魔法の準備をしている。  あまり威力はないが、この部屋一帯の壁を吹き飛ばす程度の魔法だ。  いい牽制になるだろう。  誰にも止める間も無く魔法が発動された。  どゴォ!  派手な音を出しながら五階部分は完全に吹き飛んで、上で待機していた二、三十ほどいた用心棒たちが真っ逆さまに落ちていく。
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

468人が本棚に入れています
本棚に追加