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「すみません、もう仕事は終わってるので、写真は撮らないでください」
私はカメラを避けて、逃げようとする。しかし、彼らはしつこく追いかけてくる。
私は心の中で後悔した。服は着替えたけど、髪型がそのままだ。小さい子にも親しんでもらえるようにと、長い髪をツインテールにしていた。といっても、それほど高い位置じゃない。この年でもギリギリ許されるだろうって位置……だと一応思っている。それがきっとまずかった。髪もほどいて、帽子でも被っておくんだった……。
花蓮さんはこういった経験も多くて、ちゃんとアドバイスをしてくれていたというのに。
私はこれまでしつこいカメラ小僧に会ったことがなかったから、油断していた。
「ごめんなさい、通して……」
「一枚だけでもいいから! 写真撮らせてって言ってるだけでしょ?」
「そーだよ。撮らせろよ!」
カメラ小僧のうちの一人が、私の腕を掴む。
「離してっ」
「騒がないでよ、おねーさん。おい、ちょっとひとけないとこまで……」
「おい、何をしている」
いきなり違う方向から声がして、全員が思わずそっちを見た。するとそこには、大柄で強面の男性が立っている。眉間に皺を寄せ、こちらを睨みつけていた。
ひぃっ!! はっきり言って、怖い! カメラ小僧たちも硬直している。
「何をしているのかと聞いている」
その男性はカメラ小僧の腕を取り、私から離す。そして、私に背を向けて、カメラ小僧たちから庇ってくれる。彼が目の前に立つと、私なんて彼らから見えなくなってしまう。
「えっと、その、あの……」
「しゃ、写真を撮りたいって思って……」
全員がしどろもどろになっている。この迫力で言われたら、何を言われても竦むだろう。
私は、目の前の背中を見上げた。
「あ……」
ドキリと心臓が音を立てる。この背中には見覚えがあった。大きくて、頼もしい背中。力強くて、何からをも守ってくれそうな、理想の背中──。
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