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「無理強いするな」
「で、でも……」
「な、なんだよ、あんた! このお姉さんとは何の関係もないんだろ? なら、口出しするなよっ」
一人、身の程を知らないツワモノがいた。よく口ごたえしたなぁ、と思わず感心してしまう。背中越しにチラッと見てみると、言い返した男は青ざめていた。
「関係者、だけど」
「う、嘘つけっ!」
男性が私を振り返る。その時に、私はマジマジと彼の顔を見つめる。
強面だけど、パーツの一つ一つは整っていて、男らしい顔つきだ。これは立派にイケメンといえる。強い視線が印象的で、いかにも真面目といった感じ。だから、困っている私を放っておけなかったんだろう。
「ほら、お姉さんが困ってるじゃんか」
「関係者なんて、嘘つきやがって!」
あ、ダメダメ。つい見惚れてしまった。
私はブンブンと首を横に振り、彼の腕に自分の腕を絡ませる。彼はギョっとしたように私を見るけど、今は我慢してもらおう。
「この人、私の彼ですっ」
「えっ!?」
「マジかよ?」
「ほんとです! ねっ!?」
私は彼を見上げる。彼はちょっと困ったような顔をしたけど、小さく頷いてくれた。どうやら空気を読んでくれたらしい。ホッ。
私はカメラ小僧たちを見渡し、ハッキリと言った。
「写真は撮らないでください。ごめんなさい」
「もう行くぞ」
彼が、トドメとばかりに睨みをきかせる。すると、カメラ小僧たちは情けない声を出しながら、一目散に逃げていった。はぁ……助かった。
私は改めて彼を見上げ、そして腕を離した。即席彼氏の役なんて押し付けてしまって、申し訳なかった。
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