理想の背中

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「ごめんなさい。でも、ありがとうございました、助かりました」 「いや……」 「あの、もしかして……」  もしかして、なんて言ってはみたけど、この人の名前はもうすでにわかっているようなものだ。私は確信している。この人は──。 「おーい、護! あれ? 朱夏ちゃんもいるし!」  見ると、アクションメンバーとスタッフの皆がこちらに向かってきていた。その先頭は、海崎さんだ。 「お前、マイペースに先に行ってんじゃねーよ。で、朱夏ちゃんはどうしたの?」  海崎さんをはじめ、皆が不思議そうな顔をしている。私は小さく笑い、海崎さんに事の経緯を説明した。すると、海崎さんはクツクツと喉を鳴らす。 「なんだよ、素でもヒーローかよ」 「いえ、そういうわけでは……」 「いやいや、ここで知らん顔したら、ヒーローの名が廃る! よくやった!」 「はぁ」  海崎さんにからかわれ、彼はガリガリと頭を掻いている。そう、カメラ小僧から私を助けてくれたこの人が、一ノ瀬護さん、今日のレッドだったのだ。 「一ノ瀬さん、本当にありがとうございました」  頭を下げると、一ノ瀬さんはキョロキョロと視線を彷徨わせる。照れているのか、動揺しているのか、そんな様子がちょっと可愛く思えてしまった。 「い、いえ……」 「お前、その反応なんだよ。……ごめんね、朱夏ちゃん。こいつ、女性にあまり免疫ないみたいで愛想なしだけど、いい奴だから」 「はい」  いい奴なのは、もうわかっている。そして、強面にもかかわらず、困ったように眉を下げているその表情からも、それは滲み出ている。
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