708人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃ、僕たちは次の現場に行くから、またね。気をつけて帰ってね」
海崎さんがニッコリと微笑む。その笑みは、まるで王子か騎士のようだ。この人が、さっきまで悪ボスとして、ダミ声張り上げていたとは思えない。
私はクスッと笑い、再び全員に向かってお辞儀をした。
「皆さん、次の現場も頑張ってください!」
「ありがとー!」
「じゃーねー!」
「また今度ねー」
皆は、駐車場に向かって小走りで駆けていく。車に荷物を積み、次の現場へ向かうのだ。
私はしばらくの間、その後ろ姿を眺めていた。
「……本当に、助けてもらっちゃった」
ショーの中で助けられた時もヤバイと思ったけど、現実に助けられたらもっとヤバイ。絡ませた腕も、逞しくて温かかった。思い出すだけで、体温が上がってくる。
「一ノ瀬さん……」
また会いたいな、切実にそう思う。どんな人なんだろう? どんなことを話し、何が好きで、どんな風に笑うんだろう?
個人的興味も尽きないし、あとは、純粋に彼のレッドがもう一度見たい。あの凛とした立ち姿に、迫力とスピード感たっぷりのアクション、あれは一朝一夕で身に着くものじゃない。
「花蓮さんに聞いてみようかな?」
私はふふ、と怪しげな笑みを浮かべ、携帯で花蓮さんのメッセージIDを呼び出すのだった。
最初のコメントを投稿しよう!