708人が本棚に入れています
本棚に追加
幼い頃から、戦隊ヒーローが大好きだった。
いつもテレビにかじりつくように見ていて、よく親から怒られたものだ。「目が悪くなるから離れなさい」と何度も言い聞かされたが、最初は守っていても次第に近くなっていく。それくらい、夢中になっていた。
小学校に上がっても、それは変わらなかった。そのせいかどうかはわからないが、視力はどんどん落ちていき、早いうちから眼鏡をかけるようになった。
親はそのうち飽きるだろうと高をくくっていた。しかし、中学生になっても戦隊熱は冷めず、口うるさく小言を言うようになった。でも、一切無視。好きなものは好きなのだから、しょうがない。
そんな俺に、ついに両親は折れた。条件を呑むなら、好きにして構わないと。その条件とは、学生を持つ親ならありきたりなものだ。つまり「学業を疎かにしないこと」。
俺は、その条件を呑んだ。うるさく言われるのが鬱陶しいということもあるが、好きなものを貫くための試練のようにも感じ、あえてそれを受け入れようと思ったのだ。そんな自分が、憧れのヒーローに近付いている気がした。
今から思えば、単純でチョロイ。でも、そのおかげで中・高・大とそこそこの成績はキープし、それなりの会社に入ることができたのだから、御の字だろう。人生設計に躓きはない。……これは、両親が思っているだけだが。
俺の戦隊熱は、大人になっても冷めなかった。どうしてここまで惹かれるのか、自分でもよくわからない。でも、好きの理由を明確に説明できる奴の方が少ないだろう。
俺はヒーローになりたかった。子どもなら、誰でも一度は夢見たことがあるだろう。そんな夢を、ずっと捨てられずにいた。
ヒーローになりたい。強くなりたい。
柔道や剣道、空手など、武道はそれなりだが、ひととおり嗜んだ。筋トレは今や趣味みたいなものだ。体型と体力をキープすることは常に心がけている。
そして、アクションも本格的に学んだ。スーツアクターという仕事があると知った時、それになろうと思った。それを目指した。だが──。
今はしがない会社員。でも、休日にヒーローショーの仕事をすることに対してもお咎めはない。副業は許可されているのだ。同僚や上司にも理解をしてもらっていて、むしろ応援なんかもしてくれて。そう思うと、なんて恵まれているのだろうと思う。
平日は会社でなかなかハードな仕事をこなし、休日は夢だったヒーローになる。それが、今の俺だ。
叶わなかった本当の夢。だが、完全に破れてしまったわけじゃない。
瞳をキラキラと輝かせた子どもたちが大勢見守るステージの上で、俺は確かにヒーローなのだから。
最初のコメントを投稿しよう!