理想の背中

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 ドキドキする気持ちを抑え、私は心を落ち着ける。  大丈夫。言うべきことは頭に入っているし、考えなくても言葉が出てくるくらいには練習もした。  それでも心は逸る。人のざわめきや笑い声、そして期待感までもが、ここまで届いているからだ。  ダーン!  テーマソングが流れてくる。出番だ。  私は舞台袖から勢いをつけ、一気にその中央まで走り出た。 「みなさーん、こんにちは~!」  マイクを通して、客席に向かって挨拶をする。すると、パラパラと子どもの声が返ってきた。 「こんにちはぁ……」  恥ずかしいのもあるだろう。周りをキョロキョロと見ている子どもも多い。  客席は満員御礼。今日は晴天で、この野外ステージは明るい太陽に照らされている。  こんなに小さな声じゃ、とても彼らを呼び出すことはできない。 「あれあれ? みんな、ちょーっと元気が足りないかなぁ? お姉さんとみんなは、今日初めて出会ったんだから、元気なお声でのご挨拶から始めよう! じゃ、もう一回いくよ? みなさーん、こーんにーちはぁーーーっ!!」  元気いっぱいの声を投げかける。すると今度は、それに負けないほどの、大きな声が返ってきた。 「こんにちはああああっ!!」  やけくそのように叫んでいる子もいる。改めて客席を見渡すと、子どもがいっぱい。瞳がキラキラと輝いている。期待に満ち溢れている。  うん、わかる。その気持ち、すっごくよくわかる!  ワクワクしている子どもたちを見ると、自然と私のテンションも上がっていく。 「はい! 今度は元気なお声が返ってきました! こんにちは! 今日は桜森(さくらのもり)遊園地に遊びに来てくれて、どうもありがとう! 今からここに、みんなのだーいすきなヒーローがやって来るんだけど、みんな、誰か知ってる~?」  すると、客席の子どもたちが、私に向かって口々に叫んできた。
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