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「だって、ぼんやりしてるから」
「ぼんやりしてたら、全部恋煩いなんですか」
「朱夏ちゃんのことを思い出してたのかなって」
「朱夏ちゃん……?」
「護がカメラ小僧たちから守った女の子。前の現場でMCやってた子」
「あぁ……!」
やっと思い出した。彼女のことか。
祐也さんは呆れた顔で、俺をジロッと睨んだ。
「自己紹介してくれただろ? お前ね、そういうのちゃんと覚えておかなきゃダメだよ? 失礼だろ」
祐也さんの言うことも一理あるが、俺は人の顔と名前を覚えるのが得意じゃない。特に女性は。あんなことがなければ、俺はたぶん忘れていたんじゃないだろうか。
「そういえば……新顔でしたね、彼女」
「あぁ、朱夏ちゃんはキャラクターの方の現場が多かったから。ヒーローは今日が初めて」
「そうだったんですね」
彼女、確か、安曇さんといったか。
安曇さんは、桐ケ谷さんのMCを継承しつつも、自分なりの色を出していたな、と改めて彼女のMCを思い出しながら思った。
とにかく笑顔がいい。心から楽しんでいることがわかる。その楽しさが、こっちにまで伝染してくる勢いだった。
健康的で、快活で、女性らしいが華美すぎない爽やかなトップスに、膝上の明るい赤のスカート、真っ白いスニーカー、長い髪を少し低めの位置でまとめたツインテール。……あれ、俺、意外とちゃんと覚えてるな。
いかにもカメラ小僧が好きそうなタイプだと思った。見た目もそうだし、何よりまだ初々しさがある。彼らはそういったお姉さんが大好物なのだ。案の定、彼らはショーの間中、俺たちよりもむしろ彼女を撮っていたようだった。
危ないな、と少し思った。だが、俺たちは次にも現場があるし、ずっと気にしてやれるわけじゃない。カメラ小僧がまだ園にいるのは知っていた。だから、彼女が園を出れば安全だ。そう思って気にしていたら、あれだ。
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