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「花蓮より朱夏ちゃんの方が、彼ら的には好みなんだよねぇ」
祐也さんも、まさに俺と同じことを考えている。
「そうですね」
「今日もちょっと心配してたんだけど、護が助けてくれてよかったよ」
「いえ……」
彼女が困っているのは明らかだった。ちょっと強引なくらいなら、彼女も難なくあしらえたのだろうけど、彼らは結構強引だった。ひとけのない場所に連れていこうとしていたくらいだ。そんなこと、見過ごせるはずがない。
「ま、これからも変なのに絡まれる可能性あるから、僕たちが気をつけてあげなきゃね」
そう言って、祐也さんがニッと笑った。
「護、頼むな」
「いや、俺ら全員でってことじゃ?」
「まぁそうなんだけど。でも、仲よさそうにしてたじゃんか。腕まで組んじゃって」
「……っ!」
突如思い出した。
安曇さんが腕を絡め、俺を彼氏だと言って彼らを追い払ったことを。
「あ、あれはっ」
「いやぁ、ビビったわ。女っ気のないお前が、女の子と腕組んでるんだから」
「いや、だからですね、あれは……」
「わかってるって。いちいちムキになんなよ」
祐也さんが肩を小刻みに揺らしている。くそ、また遊ばれた。
俺は、いつの間にか目の前に置かれていた新しいジョッキを手にし、グイと一飲み。今度はキンキンに冷えていてうまい。
「ぷはっ」
「ほんっと可愛いやつめ」
ぐりぐりぐり、と祐也さんに頭を撫でられる。ちょっと痛いが、嫌ではない。
祐也さんはこうやって、後輩を可愛がり、よく面倒を見る。だから、皆から慕われているのだろう。
俺は長男だから、これまでこういう経験がなかった。学校でも、会社でも、この強面のせいもあって、可愛がられたり弄られたり世話を焼かれたりといったことは一切なかったのだ。
だから嫌じゃない。むしろ、新鮮。
「あんな風にしてると、普通に付き合ってるみたいだったぞぉ? だから、頑張れよ、護!」
「いや、だからあれはね!」
「あはははは!」
言い訳をする前に、祐也さんは上機嫌のまま、笑いながら去っていった。行った先で、また別の後輩を弄り始める。ったく、あの人は。
俺は苦笑しながら、またビールを喉に流し込む。あぁ、アクション終わりのビールはうまい。
彼女……安曇さんと次に一緒になるのはいつだろうか。
その時はまた、変な輩に絡まれないか、気をつけて見ていよう。仲間を守るのは、ヒーローの務めだ。
よし、と頷き、俺は一気にビールジョッキを空にした。
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