桜の季節は想定外から始まった

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 一般教室とは明らかに違う。まず、扉から違っていた。普通の教室は引き戸だ。しかしここはドアになっていて、扉部分に「生徒会室」とプレートがかけられている。  中に入ると、作業机にホワイトボード、コピー機まである。各デスクにはノートパソコンまで置かれていた。 「明智(めいち)学園高等部・生徒会へようこそ! 君が佐倉(さくら)(ゆず)君だね?」  右手を差し出しながら微笑むのは、ハッと目を見張るほどの美少年。  少し長い栗色の髪を後ろで一つに束ねている。髪の色といい、長さといい、ここがいかに自由であるかを物語っているようだ。  だってこの人が、この学校をいわば牛耳っているともいえる生徒会長、その人なのだから。 「私が生徒会長の(ひじり)(かなめ)だ。よろしく、佐倉君」  形のいい唇が緩やかな弧を描く。全体的に色素が薄いのか、目の色もライトブラウンで日本人離れしている。だからなのか、優雅な身のこなしも相まって、まるでどこかの国の王子様のようにも見える。 「よろしく……お願いします」  私は会長の手を取り、ペコリとお辞儀をした。顔を上げると、会長の後ろに控えていた他の生徒会役員の人たちが、パチパチと拍手をしていた。 「うちの生徒会は、学校内の行事を全て取り仕切っている、いわばイベント会社みたいなものだ。いろいろと大変だとは思うけれど、いい経験になると思うよ。他の役員の自己紹介の前に、まずは佐倉君からお願いできるかい?」  会長にそう言われ、私はピシッと背筋を伸ばし、「はい」と答える。  ここの生徒会のことは、すでに噂で知っている。学校行事は全て生徒会が運営し、校則なども生徒会が主体となって作成されているらしい。  なので、校則が変更されることもしばしば。生徒がいかに学校生活を安全に、正しく、楽しく謳歌できるか、そういった学校環境を守るために生徒会は活動している。  だから、近隣の高校生の間では、ここの生徒会は最強と言われているらしい。  生徒会へ誘われた時、最初は正直面倒だと思った。でも、この事実を知った時、私の考えは180度変わったのだ。  「明智学園高等部生徒会出身」この肩書は、大学入試にも有利に働く。それがわかったからこそ、私はこの誘いに乗ることを決めた。  打算的と言われようがどうしようが構わない。私にとって一流大学に合格することは、一つの大きな目標であり、どうしても達成したいことなのだから。 「一年A組の佐倉柚です。会計として皆さんのお力になれるよう頑張りますので、ご指導のほどよろしくお願いします」  この時の私はまだ知らなかった。  明智学園高等部・生徒会執行部、ここはエリート集団の集まりだと思いきや、実は──。
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