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「なんで泣いてるんだよ?」
「泣いてない」
声が掠れ、震えている。これじゃバレバレだ。でもそれを認めたくなくて、私はブンブンと首を横に振る。
「ったく……。泣きたいのはこっちだっていうんだよ」
桐生君らしくない情けない声に、私はつい顔を上げてしまった。
桐生君は私の顔をしばらく眺めた後、両腕を解放し、いつものように手をポスンと私の頭の上に置く。
「あいつ、前にファミレスで会った奴だよな?」
三国さんのことだ。私はコクンと頷く。
「あいつ、佐倉の友だちとか言ってたけど、違うだろ?」
「中学の……」
「でも、あいつの話聞いてたら、友だちなんて思えなかったけど」
三国さんが私についてどう言っていたのかは知らない。でも、桐生君はほんの少し彼女と話しただけで、それがわかったんだ。
情けなくなって何も言えずにいると、桐生君は力尽きたようにその場に座り込んでしまった。
「きりゅ……」
「そんな友だちでもない奴の、訳わかんない話を聞かされた俺の身にもなれよ。いきなり好きだとか、付き合うとか、意味がわからない」
「三国さんは……」
「会ったのは一度きりだし、しかもあの時、あいつは明らかに佐倉を見下してた。おまけに自慢話ばかりで悦に入ってて、印象最悪」
「話、聞こえてたんだ」
そういえば、百は聞いてたみたいだった。だとすると、当然桐生君だってそうだ。それなら、印象が最悪というのも頷ける。彼女は私だけでなく、明智のことも見下していたのだから。
「佐倉、お前さ……気にならなかった?」
「え……?」
桐生君が恨みがましく私を見上げ、少し怒ったように言った。
「そんな女と俺を引き合わせて。嫌だって、断ろうとは思わなかったのか?」
嫌だったよ。断りたかったよ。でも……!
自分が悪いくせに一方的に責められているような気がしてしまって、私は思わず逆上し、声を荒らげた。
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