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『ねぇ、柚って本当はうちに来たくなかったんでしょ?』
そうズバリ指摘されたのは、すでに誰もいなくなった女子更衣室でだった。
そう指摘したのは、水無瀬百。持ち上がり組で、顔がやたらと広く、クラスでも目立つ存在。
図星を指された私は、咄嗟にうまい言い訳が思いつかず、あたふたとしてしまった。これじゃ、「そのとおりです」と言っているようなものだ。
彼女にバレてしまえば、クラス全体に伝わってしまう。途端に弾かれてしまう。私は焦りに焦っていた。
でも彼女は、冷や汗をかきながら慌てている私を見て、クスクスと肩を震わせて笑った。
『動揺しすぎでしょ』
『私、そういう態度してた?』
『ううん。クラスの誰も、そんなこと思ってないと思うよ?』
なら、どうして彼女にはわかったのだろう?
首を傾げていると、彼女はヒョイと肩を竦め、口元に人差し指を立てた。内緒だよ、といったポーズ。
『実は私、人の心が読めるんだよね』
『……嘘だよね?』
『だから、柚の心の中を読んじゃった!』
そんなこと、あるはずがない。でも彼女は私の心を、私の気持ちを見抜いた。
信じられないけれど、本当なの……?
すると、彼女はゲラゲラとお腹を抱えて笑い出す。
『嘘だよ! まさか信じるとは思わなかった! 柚って面白い!』
『しっ、信じてないしっ!!』
『いや、さっきの顔は信じてたよ。ほんと!? って顔してたもん!』
『うっ……』
悔しい。見事に遊ばれてしまった。
私が唇を噛んで俯いていると、彼女は「ごめん」と小さな声で謝り、何を思ったのか、ぎゅっと私を抱きしめる。驚いて顔を上げると、彼女は無邪気な顔で笑っていた。
『なーんかね、いっつも無理してる感じがしてたんだよね。まぁ、勘? みたいな感じだけど。でも、やっぱりそうだった』
『勘?』
『うん。空気っていうのかなぁ? そういうの、割と察しちゃうんだよね、私。見た目から想像できないかもだけど』
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