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第21話 ジェイコブの告白
俺はブライアンに続けてまたジェイコブに連絡していた。ジェイコブは苛立っていた。
「またかリュウタ。何だ? またマースティンのことか? 懲りない奴だ。あの話は終わりだ。いったいぜんたいどうしたっていうんだよ!?」
「なあジェイコブ。俺の存在は、ある意味じゃ米国の国益にもかかわることなんだろ?」
「ああ?」
「もしさ、俺達の会話を第三者が盗み聞きするようなことがあったら。要するに、このロボットハウスを盗聴してるようなことがあったら、重要な情報は全て外部にダダ漏れじゃないか?」
「リュウタ。君はSF映画の見すぎだ」
「どうなんだよ?」
「むぅ……絶対に、ありえない。そのためのハウスだ」
「要するに、リスクを見込むだけの危険性があったってことなんだな?」
「そうだな。君の話を一種のファンタジーとして肯定したとしよう。多くの国や組織が宇宙人の存在を付け狙っているに違いない。欲するのは宇宙の未知の叡智か……」
「だけど俺の存在は新聞記事で広く認知されている」
「そうだ。隠す必要なんてないからだ。宇宙空間には何人たりとも介入できない」
「あんたがその組織だったならどうする?」
「……何を疑ってるんだ、君はおかしいぞ?」
「そうだよな。俺にこんなことを考えさせたのは他でもない、ジェイクだよ……」
ジェイコブは黙った。俺の言葉は半分本音で半分嘘だ。マースティンはNSIAに疑惑を抱かせるものだったけれど、実際に盗聴に危機感を持ったのはあのブライアンって男の接触があったから。マースティンの話を引き合いに出したのは一種の隠れ蓑だ。俺の計算どおりかジェイコブは呆れたように納得していた。
「そうしたら疑問を抱くのも無理ないかもな」
「地上に帰ったとき、俺の未来を誰が保障してくれるのか……不安なんだ」
「誓っていうが。我々組織はヘマをしない。君の身は我々が守る。約束する」
「どうしてそんな口約束を信用できるんだよっ!」
俺は、堪え切れなくなって、思わず感情が爆発してしまう。挙句、俺は確実に言ってはならないだろうことまで口走ってしまった。
「ジェイクは失踪した! 身を隠した! 組織が守ってくれない実態じゃないか!?」
「……それもステイマンが?」
「あ……ああ?」
俺は思わず怖気づく。ジェイコブはいう。
「そうか……そこまで知られてしまったのなら白状するしかない。確かに、ジェイクのことを私は知っていた。しかし教えなかった。二つの事情からだ。ひとつは、今いったように君を悪戯に混乱させると思った。もうひとつは、彼の失踪が我々にとっても不測の事態だったからだ」
俺は、気味が悪くなってゾッとしてしまう。ジェイコブは続けていう。
「いうなれば彼は、NSIAによる保護を受け付けなかった。我々も彼のことを探したがとうとう見つからなかった。我々も手を尽くしたんだ」
「それって……?」
「だからリュウタ。この話は、このプロジェクトとはまったく別の話になってくる。そしてこれが全ての真実だ。もうやめだ」
「そんな……」
どうしてそんなことを……。
* * *
相変わらず獣座衛門はゲームをしていた。
俺はウォーキングクロゼットへ向かって例の資料を見ていた。
「共有項目……?」
このカテゴリーはNSIAとも共有されている情報なんだろう。
『――アメリカ人=43歳=記述者不明――宇宙人は高度な文明を持つ。それは間違いのないことなのだが、それにしてもなぜ彼は地球に興味を持つ。私は仮説を建てた。彼はまだ地球にやり残した仕事がある。そうだ。我々を通じて間接的に任務を果たそうとしているに違いない。検体Bが地球のものならざるテクノロジーで作られていたことを考えると、そのこともあながち間違いではないように思う』
『――不明人=40歳=記述者不明――オノダは魂への探究心が強い。彼が地球にやって来た意図は不明だが、本当は魂の研究に来たのではないか。今となっては帰還が明日に迫る自分にその真意を知る術はないが、未来のオペレーターにはぜひとも事の真相を明らかにしてほしい。その時にまだオノダがロボットハウスにいればの話だが』
『――インド人=46歳=記述者不明――口吻を持つ海の生物の姿は実在する。UMAなどといって地球でも未確認生物の話が取り沙汰されているが、海は第二の宇宙だ。恐ろしい深淵が底に待ち構えている。我々はかつて陸に上がり、陸の覇者となったが、代わりに海の覇権を手放したことを痛感する。近い将来、侵略は海からはじまるのかもしれない』
「……」
無意識のうちに額に汗が滴る。変な緊張感が漂う。これらの記述は今まで得た情報を裏付けることもあれば、まったくの未知の記述もあった。不可解な専門用語も出てくる。俺はページをめくる。次第に《非共有項目》の領域に差し掛かった。俺は記述に目を通す。
『――不明人=32歳=記述者不明――小野田は歴史を無意味だといった。時空のうねりが、歪曲した真実を我々にもたらす。より深い過去の時代にさかのぼるほどに生物の進化は疑ってかかるべきだといった。根拠はなんだと聞いたら、「君達の学問には致命的な欠陥がある」といった。それは何だと聞いたら、今は話すべきではないといった。つくづく思うがオノダは秘密主義者だ』
『――不明人=44歳=記述者不明――ロボットハウスは、元々NSIAの宇宙生物の実験場だったことを組織の人間は知らないだろう。検体Dがオノダと判明したのは偶然の産物だった。それは人類にとって想定しうる最悪の形でのファーストコンタクトとなってしまった。この事実は良い知らせと悪い知らせを等しく内包している。前者は宇宙人の発見、後者はその宇宙人に悪い印象を与えてしまったということだ。今ではオペレーター計画はまったく別物へと姿を変えたが、当時の性格を今も受け継いでいるのかもしれない。厳密に言えば彼が未だにロボットハウスに留まっているのは奇妙なことだ。彼の変化を見て私は確信した。オノダは何かを求めてる。ここロボットハウスには彼の求める何かがある。我々は彼の要求に答えるべきだ。しかし、それをすると全てが終わってしまう。だからNSIAはこの事実を封印した。私もNSIAにこのことを話すつもりはない』
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