第22話 組織の捏造

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第22話 組織の捏造

 俺はアイリーンに電話をかけていた。連絡先は事前にあの喫茶店で受け取ったものだ。それを今まで保管していたのは奇跡かもしれない。とにかく、あのブライアンが信頼に足る人物なのか確かめたかった。意見がまったく食い違ってる可能性もある。またアイリーンの方からも情報が欲しかったんだ。 「ハロー?」 「……松本隆太だよ、覚えてる? 宇宙人の……」 「リュウタ? オウ……本当に連絡してくるなんて……私の渡した電話番号、覚えていてくれたのね!」 「うん……確認したいんだけど。アイリーン?」 「そうよ? ……どうして電話を?」 「聞きたいことがある……いや、君のことも含めて、ブライアンって人に身に覚えは?」 「ブライアン……ええ、CIAの捜査官だっていってた」 「彼は君が俺のことを探すように依頼してきたっていったんだ。それであってる? それから……君のことをFBIの捜査官だって……」 「ふふふ、彼CIAの癖に何でも喋っちゃうのね。そうよ。私はFBIの捜査官。彼に依頼したのも私」 「どうしてそんなことを?」 「貴方を宇宙にさらった組織を捜すためよ」 「そしたら、どうしてあのときに止めなかったんだよ!?」 「簡単に言うと……あの時点で組織のことを知らなかったってことになる」 「それじゃあ、打ち上げから今日までの数日間のうちに、NSIAって組織が実在しないってことを突き止めたのか?」 「そういうことになるわね」  組織のことをブライアンから知ったのか、または組織の正体を知ったアイリーンがブライアンにけしかけたのか。いずれにせよ、二人が協力関係にあるのは事実みたいだ。 「喫茶店で始めて会った時、君は何らかの意図で俺達のところへやって来たんだろ? そしてあの口論だ……君はあの時ダニエルと何を話してたんだ?」 「計画がきな臭いことは予めわかってた。オペレーターに不審な兆候があった。犯罪にも巻き込まれてる。けれどNSIAが丸々、紛い物の組織だってことはわからなかった。私たちも下手に手を出せないのよ。NASAに関係する組織は私たちの捜査が及ぶ範疇外のことだからね。そこで記者を装って、空で何をしてるのかを聞き出そうと思った……」 「あんまりにも横暴なアプローチだ」 「ええ、今から考えたらね。ただあれほど直接的に拒絶されるとは思わなかった。計算外だった。だって私が尋ねたのはオペレーター計画の被験者のことなんですもの」 「……うん」  それは、俺がさっきジェイコブに問い詰めたことと同じだ。彼女はいち早く俺と同じ結論に達して、そのことをパイロットのダニエルに問い詰めた。ダニエルは答えられなかった、または知らなかった。だから反射的にアイリーンを衝き返した。そうだとしたら……やっぱりNSIAは……ジェイコブは何かを俺に隠してるんだ。 「彼らは被験者のプライベート保護するつもりで私を衝き返したんだって思った。でも今からよく考えたら、彼らは答えられなかったんじゃないかっ思ったの」 「なぜ?」 「わからない。でも、こうなった以上はその真偽の程は大して重要じゃない。今はリュウタ、貴方を助けるのが先」 「ちょっと待ってくれ。ブライアンから俺が宇宙人と一緒にいることは聞いたんだろ?」 「ええ」 「今プロジェクトを中断するわけにはいかないんだ。悪いけど事件の話は俺が地球に帰ったらにしてくれないかな……これ以上地球の面倒ごとに巻き込まれたくないんだよ!」 「プロジェクトって……宇宙人の話?」 「ああ! そうだよ! 俺と獣座衛門とのデリケートな問題なんだ。これ以上水を差されたくない!」 「ふふ……リュウタ。本気で宇宙人が実在するとでも思ってるの?」 「なんだって!?」 「ああ……ごめんなさい。そうね、あなたは組織から任された仕事に誇りを持ってる。その部分に対して私は悪く言っているわけじゃないのよ。だから誤解しないで」 「まどろっこしいな! 何が言いたいんだよ!?」 「……単刀直入に言うわ。宇宙人なんて実在しない」 「なんでそんなこと言えるんだよ!? 君は何も知らない地球人だろ!?」 「あらそう? じゃあ貴方は何でも知っている日本の天才高校生ってワケ?」 「……理由を話してくれ!」 「ブライアンの話はしょっぱなから眉唾物だった。特に宇宙人と秘密裏に接触する技術を確立した組織が? ……言わせてもらうけどここ何十年も宇宙の知的生命体との交信を試みる計画が動いてる中で、そのいずれもが宇宙人との接触は愚か痕跡さえ見つけていない。どうしてその組織が人類で始めて宇宙人との接触することができたの?」 「それは……ある意味じゃ、ほんの偶然の産物で――――」  俺が喋っている最中にもかかわらずアイリーンは間に割って入ってくる。これが米国人のせっかちな国民性ってやつなんだろうか。 「これは私の偏見なんかじゃないわ……NASAの公式見解。地球最高峰の宇宙の知性がそう判断を下しているの。地球のどこかにずば抜けて高度な宇宙テクノロジーを発展させた組織があったとしましょう。かといってそれは些細な差異に過ぎないわ」 「……なんだって」  俺は、冷たい汗がブワッと額から噴出してきた。嫌な汗だった。いよいよアイリーンの宇宙人否定説が現実味を帯びてきたようにも思えた。 「じゃあ……俺が目の前にしているのは?」 「わからない……ただ、宇宙人ではないことは確かよ」  俺はゾッとして思わずふり返ってしまう。そこにはお茶を啜る獣座衛門の姿があった。 「俺はっ……確かに宇宙人といるんだ!」 「そう……じゃあ、宇宙人でも地球人でもない第三の知的生命体ということになるわね」 「は……?」  それは、突飛な可能性だった。  アイリーンはジョークのつもりでいったみたいだけど。俺の脳裏に新たな疑問を抱かせるには十分だったんだ。アイリーンは続けていう。 「とにかく、蛸の足をした知的生命体がいるなんて私は絶対に信じないから。それから、リュウタ。その空間にいるのは非常に危険なの。一刻も早くそこから逃げ出すことだけを考えるのよ? いい? ブライアンになんて言われたか知らないけれど、その空間に潜む何かが人をおかしくするの。貴方が見ているものが何にせよ危険よ? 私は同僚と情報収集の最中だから。また連絡するわ。いいわね?」  そうしたら突然アイリーンは何かに気づいたのか、またはふと気が変わったようにいう。 「……ねぇリュウタ、今、ペンタゴンにいるの。どうしてかわかる? 有人宇宙飛行には専門的で高度なテクノロジーが必要。現代でも、それを成し得るのは国家規模の組織だけ。それも米国、ロシア、中国だけよ。貴方を宇宙に打ち上げる技術を持っているのは米国ではNASAだけなの。その組織はNASAと何らかの関係性が無いと矛盾する。だから大統領に話を聞きに来たの。彼も協力してくれるといってるわ」 「大統領に……事情聴取?」 「国家機密のテクノロジーが漏洩した可能性がある」「……!」  直接組織を捜しても見つからないなら、今度はその出自から辿って組織にたどり着こうってことなのか。確かに、ある意味では利口な方法には思えたけれど。 「ブライアンはなんていってるんだ?」 「もちろん、彼も協力してくれる」 「な……なぁ、アイリーン。俺のこと新聞記事になってるんだろ?」 「記事? なんのこと?」 「いや…………」 「リュウタ?」 「なんでもないよ」  なんでもない。くだらないことなんだ。俺は、思わず通信を切ってしまった。 「ぜぇ……ぜぇ……」  自然と呼吸が荒くなる。何か、何かが俺の理解の外にある。俺の常識が狂い始めている。情報に大きな齟齬が生じている。一体何が本当で、何が嘘かもわからなかった。 「どういうことなんだよ」
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