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第23話 笑う宇宙人
俺と獣座衛門はゲームをしていた。今更思ったことだけどゲームは気紛れに丁度いい。ゲームをしてる最中は現実世界の嫌なこととかを全部シャットアウトできる。今度は最新作の忍者のゲームの没頭している獣座衛門を俺はそばでじっと見守っていた。そうしたら、獣座衛門がコントローラーを置いた。何事かと思った。彼は振り返ってきて、まじまじと俺の顔を見つめてきた。
「なぁリュウタお前何か嘘をついてるだろ?」
「は……?」
「じゃあその代わり、俺も隠してたことをいう。隆太。お前通信機を使ってるんだろ?」
「……!」
「気づいてたさ。俺も馬鹿じゃない」
「お……俺は……」
「殺されると思ったのか? 向こうの人間達が何を言ったか知らないが、俺はそんな短気な宇宙人じゃない。俺とあって話しても信じられないか?」
「正直に言えば、……まあそうだな」
「ウフフフフフ。本当に正直だな。嫌いじゃないぜ」
「この際言わせて貰うが、獣座衛門。お前は人殺しだ」
「そうかもしれない……殺しは何でも正当化できないのが今の人間世界の倫理だものな」
「どういうことだ?」
「古い歴史をさかのぼれば。人の話を盗み聞きするような輩は死に値するって価値もあったのだぜ」
「イカれてる」
「戦国時代じゃ、人は信用できないものだ。いつ誰が裏切るかわかったものじゃない。しかも俺は宇宙人だ。俺の身になって考えてくれ。俺には人を殺せる程度の力を持ってる。檻の中のマウスじゃない。俺はただその程度の節度を守って欲しかった。それだけなんだ」
「……!」
「ウフフフフフ。しかし場所が違えば危うく、人類の存亡をかけた宇宙戦争勃発待ったナシだった。俺は幸運な宇宙人だ。だからこうして今日もゲームができる」
俺はゾッとして鳥肌が立つ。自分の置かれた立場の輪郭が徐々にはっきりしはじめたことに恐怖を感じていたのかもしれない。知りたくなかった。正直そう思う。だけど今更後悔したって後の祭りだ。俺の推測が正しいか正しくないかはいずれわかること。今はただできることをするだけなんだから。
俺は獣座衛門を置いてキッチンへと向かう、獣座衛門が話しかけてくる。
「どこへ行くんだ?」
「お茶を淹れに…………いや、ジェイコブっていう俺の司令官と連絡を取るんだ」
「なるほど。そうして密かに地球の司令部と繋がっていたんだな?」
「俺も最初は……こんなの間違ってると思ったよ。だけどそれが仕事だ。こうなった以上は隠すつもりもないけど」
「……好きにすればいい」
「どうして?」
「盗み聞きは嫌いだが、君が君の意思で聞き知ったことを伝える分には問題ない」
俺は立ち止まって呆然としていた。獣座衛門が呆れたように俺を見る。
「なんだ。まだ何かあるのか?」
「いや……そんな風にいうなんて思わなかったんだ」
「ふむ。まあそう言う事もあるということだ」
獣座衛門は面白くもなさそうに、それだけいった。
俺はキッチンへと向かうと司令官のジェイコブに連絡したんだ。
「リュウタ。今しがた宇宙人と言い争いをしていたが、何かあったのか!?」
ジェイコブは必至な声音でいう。そうか、一応ジェイコブは俺達の寸劇をサイレントで監視してるんだ。不安に思って当然か。俺は答えた。
「いいや、ちょっとした小競り合いなんだ。やばいこととかにはなってない」
「よかった。君は知らないだろうが、昔宇宙人と言い争いになって右手を落とされたオペレーターがいてな」
「うん。……ジェイコブ、バインダーの資料を見た。非共有項目って?」
「ああ、……君には1と、2のセクションだけざっと目を通してもらえば十分だ。あれは実は過去のオペレーターに要望を受けて用意した資料なんだ。今となってはあの資料に書かれていることが必須というわけでもない。ただ何かの足しになるかと思って今でも置いたままにしているという程度のものだ」
「どういうことなんだよ?」
「非共有項目というのは我々が目にする必要もない程度のこと。君が知っていればいいことだ」
「極秘項目は?」
「同じだ。何を基準にしたのかは私は聞いていない。資料製作チームの裁量だろう」
「……うん?」
その時、またジェイコブが英語で何やらボソボソと話しはじめたんだ。
「……――――……――……――――……」
まただ。また。ジェイコブは何かを話してる。英単語は聞き取れない。そんなことを考えていたら背後から話しかけられた。
「……どうした」
「?」
振り向く。獣座衛門がいう。
「浮かない顔だ。何かあったのか?」
俺は逡巡した末に、このままじゃ埒が明かないと判断すると、受話器を携えたままダメ元で獣座衛門に助けを求めた。
「なぁ、獣座衛門。英語。できないよな?」
「まったくだ」
「そっか。そうだよなぁ……」俺は弱ってため息をつく。「どうしたんだ?」
「受話器越しにジェイコブが何か英語で話してるんだ。たぶん俺には理解できないと思ってオペレータールームで……」
「聞いてみようか?」
「え?」
「トーカマンだよ」
「あっ……そうか!」
外国語翻訳機能のあるポータブルゲーム。その手があったか。
「けどどうやって……?」「ちょっと貸してみ……」
獣座衛門は受話器にトーカマンを近づける。すると、ジェイコブの声を翻訳してトーカマンが喋り出す。
――ボウズ ハ アソンデバカリ ヤクタタズ ダ――
「ウフフフフフフフ。どっちが宇宙人かわかったもんじゃないな」
「どうしよう!? どうすればいいんだよ獣座衛門!」
「知るか。人間側の事情を、俺達宇宙人に解決させようとするなよ」
「――――!」
ジェイコブは。俺に対して悪感情を持ってる。俺がなかなか情報を引き出せないことに苛立ってるんだ。でもどうしよう。今すぐに何か成果を上げるなんて無理だ。期待になんて、今すぐには答えられないよ。ジェイコブ。
――だから俺達の間には隠し事はナシ! 絶対に! 約束してくれるな?――
隠し事はナシだって。言ったのはあんたの方じゃないか、ジェイコブ。俺は困惑と動揺が隠せなかった。その時――ごとり、と、ちゃぶ台に何かが置かれた。並々緑茶の注がれた湯のみだった。獣座衛門が困ったようなアンニュイな顔で俺を見つめてくる。
「頭が沸騰するぞ。茶を飲め」
「あ……ああ」
ずずっと、お茶を啜る。すると、心なしか気持ちが安らぐ気がする。お茶ってすげぇな。今まで意識したことなんてなかったけど。俺の心を見透かすように獣座衛門がいう。
「緑茶は良いぜ。頭がスッとする。デリカシーのない言い方をするならカフェインのおかげ。だけどまた、コーヒーやエナジードリンクとは違った趣があんだよな」
「あ……ああ、そうだな」
――それが真実なんだから仕方が無いじゃないか?――
俺がブライアンに言い放った言葉だ。俺自身がそのことを一番自覚できていないんじゃないか。考えること。自分の理解できる範疇で物事を解釈すること。それ自体が横暴だって気づくべきだ。自分に言い聞かせる。真実なんだから仕方がない。しかし、腑に落ちないのはどうしてだろう。何か恐ろしい悪意のようなものがチラついて脳裏から離れない。深淵。居心地の悪い不気味な深淵だった。
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