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黒い、鎌を持った、とにかく黒い、人型のようなものが宙に浮いていた。
彼女と僕の間に、いた。
確実に、見えてはいけないものが見えてしまった。
「うわあああっ」
恐れおののき、見事に尻もちをついて、その場からほふく前進をしてでも必死に逃げ去ろうとした時、待って、と足を掴まれる。無理無理無理、と情けないけど本当に怖いものはどうしようも無いので涙目になっていると、ふふっ、と笑い声がする。
「星河くん、怖がりすぎ」
透き通った声がすっと耳に入る。
何だか、ハッとして少し落ち着いた俺は、恐る恐る後ろを振り返った。けれどそこには、俺の足首の辺りに馬乗りになって抑えている(何故かまだ制服姿の)淵田小葵が居るだけだった。
「あれっ、今の……」
「ん? この死神さんのこと?」
呆けた声を出す俺に、淵田小葵は至極当然のように横を指さすけれど、そこには誰もいない。
「えっ……と。何も見えないんだけど……」
というか、何だって? 死神?
「え? 本当に見えないの?」
淵田小葵は、小首を傾げてこちらを見てくる。何なんだよ、一体。何のサプライズだよ。
「とりあえず……ちょっと退いてくれる?」
俺が苦笑しながら言うと、淵田小葵は慌ててそこから立ち上がった。一瞬スカートの下から白い布地が見えたので、さっきまでの怖さと相殺してようやく頭が冷静に働くようになった。
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