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1-2 三つの条件
「死神に連れられて俺の前まで来た?」
淵田小葵は、こくんと頷く。それから、そこに誰かいるかのように顔を横に向けて話し出す。
「この子、悪い子じゃないと思うんだけど。星河くんに怖がられてから、鎌が一回り大きくなった気がするから、普通に接してあげて欲しい」
そう言われても、相変わらず俺には何も見えないのでどうする事も出来ない。淵田小葵がトンチンカンな嘘を吐いているようにも見えないので怖さが増すけれど、とりあえず尋ねるしかない。
「えっと、小葵には、今そいつが見えてるんだよな? 何て言ってるんだ?」
「……い、今はなにも言ってないよ」
何故かあからさまに顔を背けられたので、俺は一層戸惑ってしまう。
「本当に? てか、なんか顔赤くない?」
街灯の下、小葵の前髪が長くて見え辛いので顔を近づけて大丈夫かと伺うと、また、可笑しなことを言われる。
「やっぱり、星河くん、私に似た犬飼ってるよね?」
「……だから何なんだよ、それ」
訳が分からず半笑いで応じると、小葵はまっすぐに大きな瞳でこちらを見つめてくる。
「だって……いきなり下の名前で呼ぶから」
ますます俺の頭の中にはてなマークが増えていく。
「そっちが下の名前で呼んできたからだろ」
言うと、小葵はハッして、両手を頬に当てて下を向いてしまう。
「そっか。そうだよね。私、みんなが星河星河って言うから、それしか知らなくて……ごめんなさい」
「いや別に謝らなくてもいいけど。で、苗字は、立南な。立南星河」
「あっ……立南くん。そうだった。えっと、私は」
「知ってる。淵田小葵だろ?」
小葵は、両目を見開いてこちらを向く。頬に当てた両手がめり込んでいるのでムンクの叫びみたいになっている。
「なんで知ってるの?」
「え、普通に。クラスメイトだから」
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