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素直に答えると、小葵は両手をすっと戻す。それから、コホンと咳払いをし、そういうものか、と言ってこちらに向き直る。
「話が大分逸れてしまったね。えっと、何だっけ……ん?」
また、横に誰かいるかのように顔を向ける。何やら、耳を傾けて話を聞いているみたいだ。やけに神妙な面持ちになっていくのを見て、俺は思わず固唾を飲む。
「あのね、立南くん」
話し終わったのか、小葵は真面目な顔をしてこちらを見る。
「星河でいいよ」
「あっ、え、星河くん」
最初にそう呼んでいたのに、何故か吃っている。
俺が黙って続きを待っていると、小葵は訥々と話し出した。
「私たち、死期が近いみたいなの。ほぼ同時期なんだって。それで、たまたま星河くんが近くを通りかかったから、二人一緒に告知しようと思ったって」
自分が、どんな顔をしているか分からなかった。ただ、余命宣告を受ける患者さんってこんな気持ちなのかな、とか、他人事みたいに考えていた。
でもね、と小葵は両拳を握って俺に訴えかける。
「ここからが重要なの。私たちは、まだ、運命を変えられるかもしれないの」
思わぬ話の展開に、俺は目を見開いて尋ねる。
「ん? それって……死を免れられるってこと?」
「そう。でも、条件がある」
「条件?」
前のめりになって続きを促すと、小葵は一度
ゆっくりと目を閉じて開いた。
「条件というか、ヒントみたいなもんだって。この子は、私たちがいつどんな風に死ぬのかを知っているけれど、それは死神の掟で教えられないことになっているから」
それから小葵は意を決したように頷くと、ピンと人差し指を立てる。
「一、出来るだけ二人一緒に行動すること。
二、お互いのことをよく知ろうとすること。
三、青春すること。
以上、だそうです」
言い切ると、顔を赤らめて目を逸らす小葵。
「………………は?」
俺はついに頭を抱えた。
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