京都桜小径の喫茶店~ウェディングのその前に~

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 年が明け、一月も中旬を過ぎた、ある日曜日。  昨日の雪が嘘のように、今日はぽかぽかといい天気だ。  歩道の端に少し残っている雪も、この陽気ではあっという間に消えてしまうだろう。 「マフラーいらなかったかな」  アパートの下で人を待っている私は、首元にしっかりと巻いていたマフラーを緩めた。コートの下にはよそ行きのワンピース一枚なので、寒いかと思って巻いて来たのだが、むしろ少し暑い。部屋に戻って置いてこようかと、外付け階段の上を見上げると、2階の真ん中の部屋の扉が開いて、背の高い男性が姿を現した。彼の名前は神谷誉(かみやほまれ)。私――水無月愛莉(みなづきあいり)の婚約者だ。  誉さんと私は、同じアパートの隣同士に住んでいる。  階段の上を見上げている私に気が付いたのか、誉さんが軽く手を上げた。その姿を見て、私は息を飲んだ。誉さんは強面。目つきが鋭く、左頬に傷がある。最初に出会った時は、ヤの付く怖い人かと勘違いをしてしまった。そして、長めの髪と無精ひげがトレードマーク。なのに――。 (ひげ、剃ってる!髪もちゃんと結んでる!しかも、白シャツにステンカラーコート!綺麗めファッションだぁぁ……!)  階段を下りてくる誉さんは、普段のだらしない彼らしからぬ格好をしていて、私は度肝を抜かれた。 「待たせて悪い。ん?どうした?」  目の前に立った誉さんは、惚けている私を見て怪訝な表情を浮かべた。 「あっ、いえっ、なんでもないです!なんでも!」 (誉さんが普段と違って格好いいから見惚れてましたなんて言えない)  私は熱くなった頬を押さえて俯いた。マフラーが暑い。 (えいっ、もう外しちゃえ)  私は首からチェックのマフラーを外すと、手早く畳み、大きめのハンドバッグの中にしまった。
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