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「……ダセェところを見せたくねぇーんだよ」
名前を伏せて答えたリョクに、繁も双葉も「誰に見せたくないの?」とは、あえて訊いてこない。
普通のクラスメイトと呼ぶには、リョクがあまりにも暦に夢中になっている事は一目瞭然で、繁と双葉、そして朱李は素知らぬ振りをしながらも、リョクの異常なまでの暦への愛執振りには気がついていた。
リョクと暦には、普通のクラスメイトとは違う、何か特別な〝秘密〟があるような気がしてならない。
窓を開けると、少し生暖かい、爽やかな初夏を匂わせる風がリョクの赤髪を緩やかに揺らす。
あと数日もしないうちに、気候は真夏日へと暑く変化してゆくのだろう。
豊かに育った新緑の隙間から木漏れ日が降り注ぎ、リョクの部屋にも光が射し込み、若葉の香りが部屋一杯に充満する。
リョクは大きく息を吸い込んで、自然界の空気を味わった。
道端に生えている雑草が昨日まで降り続いていた雨粒を吸収して、久し振りの日光浴を堪能している。
近所に咲いていた朝顔と紫陽花のほのかな香りが、リョクの部屋にまで届き、鼻腔をくすぐった。
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