第2章

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         「森島! 森島! こっちのプールで遊ぼうぜ!」  膝下までの水深の低いプールの中から、リョクが手招きをしつつ暦を呼んでいます。 「坂谷君、あの……、そこ、小さな子供用のプールで、中学生以上の人は五歳以下の子供と一緒じゃないと入れないから……、だから、その……」 「そそそそそーだよなぁ~~! いやぁ~~、うっかり間違っちゃったぜ! べべべべ別に浅いプールのほうが安心だからとか、深いプールに入るのが怖いからとか、そんな理由じゃねーからな!!」 「いや、あの……、別にそこまでは言ってないけど……」  動揺したリョクは、必死に弁解をしてはすっとぼけてきます。  今しがたとった行動は故意的によるものではないのだと、慌てて否定してくるリョクの威圧感に暦はたじろいでしまいますが、気を取り直して他所のプールを勧めます。 「あ、今、スライダーが()いてるね。坂谷君、スライダーに行ってみる?」 「うわぁ~~。残念だなぁ~~。オレ今、ケツと背中が痛くて、ケツと背中を使って上から下に滑るものには近付いてはいけません! ってドクターストップされているんだ!」 「そっか、それは大変だね。じゃあ流れるプールはどうかな?」 「うわぁ~~、これも残念だあぁーー。オレ今、半身不随で一方通行に進む場所に踏み入れると体半分が炎症を起こすから、流れるプールもドクターストップされているんだ! すっげー泳ぎたくて泳ぎたくてしかたないんだけど、本当に残念だ!」  次々とプールを拒むリョクの無茶苦茶な理屈にも暦は優しく聞き入れて、リョクが〝言い訳〟をしないですむプールはどれだろうなと思案します。 「ここは自由に泳いでも大丈夫なプールだから、ここで一緒に泳ごっか?」 「おう! そうしよ! そうしよ! そしてなるべく端のほうで、ゆ~~っくり泳ごうぜ!」  わざとらしくはしゃぐリョクの真横を燦々(さんさん)と咲くオレンジ色の向日葵(ひまわり)模様のビーチボールが水深の深いプールの中に放り投げられるのと同時に、小学生低学年らしき女の子数名の嘆き悲しむ声が聞こえてきました。  監視員よりも素早くパーカーを脱ぎ捨てて、遠くへ流されてゆくビーチボールを追う暦の泳ぐ姿は素晴らしく、イルカのような華麗なフォームです。  ビーチボールを手に持って戻ってきた暦に小学生の女の子達は恥じらいながら、頬を赤らめて、暦に御礼を言った後、小走りに去って行きました。        
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