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「わたしのこと、すきじゃなくてもいいから、彼女にしてほしいの」
そう望んだのは、わたしだった。
ただ、わたしの傍にいてくれたら、"恋人"という肩書きさえくれたら、それ以上の幸せはないと思っていたから。
見た目は、中の上くらい。
少し頭が冴えて、勉強はみんなよりも頭ひとつ出てる。どちらかといえば小柄で、そんなに運動も得意ではない…と思う。
それが、わたしが彼に対して感じた最初の印象。
決して目立つタイプではないけれど、それでもわたしが彼を意識してしまったのは、どうしてなんだろう。理屈じゃない、本能的な何かが、わたしを動かしたのかもしれない。
だから、まさかこんな返事がくるとは予想していなかった。
「…いいよ」
「えっ…ほんとうに?」
「うん。ていうか、自分からお願いしておいて、その反応はひどいんじゃない?」
「いや、だってびっくりして…ありがとう」
「用件はそれだけ? じゃあおれ、急ぐから」
「あ……はい…………」
連絡先を教えてほしいとか、わたしのことちゃんと知ってるかとか、訊きたいことはたくさんあったのに、彼はさっさとどこかに行ってしまった。
多くは望まない、そう思って告白したのはわたしだ。連絡先の交換は、高望みの行為なのかもしれない、と思い込む。
わたしは、握りしめたままの手を緩め、黄色いチューリップのキーホルダーを一瞥した。
「そうだ………」
そうだった。わたしは、砕けるつもりの覚悟をもって言ったんだ。望みのない恋が、たとえどんな形であれ、始まった。それだけで、十分しあわせなことなんだ。
もうこの場から見えなくなってしまった彼の姿を思い出しながら、わたしはまた黄色いチューリップのキーホルダーを握りしめた。
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