1. 消しゴムくんの大冒険

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1. 消しゴムくんの大冒険

 いまだ!   消しゴムくんは、自由を求めて、えいやっと机の上から飛び降りました。 持ち主が、小さな声で「あっ」と声を上げました。  消しゴムくんは、必死で床の上を転がります。進んでいく先に、小さな隙間が見えました。  あそこなら、もう僕は誰にも邪魔されないぞ。逆さまにされて、頭を真っ黒にされることも、ノートに擦り付けられて火傷しそうになることもない。  消しゴムくんは、無我夢中で転がり続け、暗い隙間の中に飛び込みました。  これで、もう大丈夫。ぼくは自由だ。  消しゴムくんは、胸をそっと撫で下ろしました。 ――――  教室の木の床を転がる消しゴムが、部屋の隅にある掃除用ロッカーと壁にできた細い隙間にするりと入っていったのを見ながら、私は、絵本みたいな文章を頭の中に思い浮かべた。  絵本としては、ハッピーエンドの終わり方。だって、隙間はものすごく細くて、消しゴムくんのところまでは、人間の手は届かないから。  だけど、それは、消しゴムくん側に立った場合の話なわけで、実世界の消しゴム君の持ち主は、悲壮な声を上げた。 「うわー、まじかー」  落としたのは、通路を挟んで、私の右隣に座る男の子。  彼は、しばらくの間、壁とロッカーの隙間を呆然としながら見つめていた。  そして、何かを思いついたように、筆箱の中から物差しをパッと掴むと、壁の隙間目掛けて突進して行った。  その姿が、いかにも剣を振りかざしながら、敵に立ち向かう勇者みたいで、私は思わず、事の顛末を見届けたくなった。
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