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ここはとある喫茶店。アンティーク調の落ち着いた店内に似つかわしくない、騒々しい声が飛び交う。
今、ここで二組のバカップルの痴話喧嘩が繰り広げられていた。
そのうちの、特に騒がしい方の一組。史奈と桜子。
愛し合う二人の女性の言い分は完全な平行線を辿っていた。お互いが自分の彼女こそ世界一かわいいと主張し、頑として譲らないのだ。
しかしそれも無理からぬことだった。実際のところはさておき、現に彼女たちの瞳に、目の前の女性は世界一かわいく映っているのだから。
「恋は盲目」とはよく言ったものである。
とにかく、自身の恋人が世界一と信じて疑わない二人。相手を大切に想うからこそ、争いは徐々にヒートアップしてゆく。
「絶対桜子の方が世界一かわいい!」
「史奈の方が世界一かわいいわよ!」
「桜子っ!」
「史奈っ!」
「だから、桜子だって言って……」
「あのー……すみません。他のお客様のご迷惑になりますので……」
店員の鶴の一声で、横のピンクセーターのペアルックを着たバカップルともども喫茶店から追い出された史奈たちは、すでにデートなどという気分ではなくなっていた。
まずはこの戦いに決着を付けなければなるまい。
「桜子。今からうちに来る?」
「まさか……あれをやる気?」
「なに、自信が無いの?」
「そんなわけないじゃない。いいわよ、叩きのめしてあげるわ」
史奈たちの不毛な争いはこれが初めてではない。それどころか、だいたい週3ペースで行われ、もはや恒例行事と化していた。
したがって、決着をつける方法も慣習化していた。それこそが桜子が口にした「あれ」こと……「ラブ・カルタ」であった。
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