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二人は正解と不正解を交互に繰り返し、戦局は互角のまま、ゲームは終盤に向けて進んでいった。
そして気付けば、カルタは残り5枚。二人の足元に積まれた取り札の数は、不正解を除いてお互い15枚ずつとなっていた。
『わ』
史奈の右手が「わ」のカードを打ち抜く。風圧で卓上のカードがわずかに動く。
「脇の匂いがクセになる」
「そ、それって、本当に好きなところ? 臭いってことじゃなくて?」
「良い匂いだもん! いつも胸に顔を埋めるふりして、こっそり脇の匂い嗅いでるもん!」
「そ、そう……じゃあ、正解で……」
16対15。史奈が一歩リード。
『え』
今度は桜子が取る。まるで最初から「え」を狙っていたかのような凄まじいスピードだった。
「えっちのとき、おっぱ……」
「正解! 正解!」
「なによ、まだ全部言い切ってないのに」
「もう正解でいいから! だから言わないで、お願い」
「まぁ、史奈がそれでいいならいいけど」
真っ赤な顔で懇願する史奈に、桜子はにやりと口の端を曲げ、シニカルに笑って答える。
16対16。再び同点に。
『ん』
史奈の動揺した隙をついて、回答権を連取する桜子。
「んーっとねぇ、赤ちゃんみたいでかわいい耳たぶが好き」
「『ん』じゃなくてもいいじゃん! 『あ』でいいじゃんそれなら! 雑過ぎ! 不正解!」
「ちぇっ、だめか」
桜子は肩を落とす。が、その顔からはまだ余裕がうかがえる。
スコアは動かず、16対16。
『を』
電光石火の早わざで桜子が制し、回答権を得る。
三連取と、ここにきて地力の差が出てきた。
「をとなっぽい表情のとき、ついつい見惚れちゃうわ」
「……いや、おとなっぽいみたいに言っても駄目だよ。不正解」
「なによ。『を』なんて最初から不可能じゃないの」
もっともな文句を言いぶーたれる桜子。
なにはともあれ、16対16。カルタは残り1枚。次の取り合いを制した方が、今回のゲームの勝者となるだろう。
二人は耳を澄ませ、ケータイのスピーカーが発する音を待つ。そして『せ』という言葉が耳に届いた瞬間、二人は全く同時に最後の1枚に手を伸ばした。
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