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わずかに、だけど、間違いなく、桜子の方が早かった。証拠に、史奈の手の下に桜子の人差し指が潜り込むように二人の手は重なっていた。
桜子は力を込めてカードを引き抜こうとする。しかし引き抜くことができなかった。史奈が泣きそうな顔で必死にカードを押さえ、決して離そうとしなかったからだ。
桜子はほうっと息を吐いた。
「同時、みたいね」
史奈の顔がぱぁっと明るくなった。子供っぽいほど単純な史奈の反応に、桜子も思わず笑みがこぼれた。そして手に込めた力をゆっくりと緩め、自身の指で史奈の指を絡めとった。
嗚呼、そう。この笑顔に弱いのだ。
それはまるで、殺伐とした戦場に差し込む一筋の光だった。勝敗とか意地とか、くだらないものを全て蒸発させてしまう、桜子だけの太陽。
桜子は史奈の目を見て提案する。
「せーので言いましょ」
史奈は桜子をじっと見つめ返し、こくりと頷いた。二人はせーので息を吸い、そして今度こそ寸分の狂いなく、全く同時に口を開いた。
「世界一かわいいところが好き」
完全にシンクロした二つの声。少しの間のあと史奈が言う。
「ねえ、私が今してほしいこと、わかる?」
重ねた手から伝わる熱。今ならこの手の熱をつたって、史奈の気持ちが全部わかるような気がした。
見つめ合ったまま、桜子はゆっくりと史奈の隣ににじり寄る。史奈が顔を赤らめ、そっと目を閉じる。
チュッという軽快なリップ音とともに、唇にふわりと柔らかなものが触れた。名残惜しげに唇を離した桜子に、「正解」と嬉しそうに史奈は笑った。
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