気難し屋と秘密

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「ショコラ」 ただ、それだけの言葉に、ひどく過敏に反応しすぎてしまったかもしれない―― ダイニングルームへと歩み行くオーガストは、鋭く尖った美しい顎先に、親指と人差し指を当てて考え込む。 しかし、なぜ?  僕に向けて、いきなり、あんな言葉を? あの家庭教師は、一体、何を勘づいたというのだろう? いいや、単なる偶然に違いない。 あのガヴァネスが、気づくはずもない。 彼女の部屋は、右翼の端。 左翼の端の部屋で寝込んでいるリルの姿など、見ているはずもないのだから――
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