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庭よりの援軍
21
怒りのあまり、眠れない――
そんなことは、アンにとって、めったにあることではなかった。
腹立ちの原因は、無論、夕刻に帰還したアンテソープの主、ダチェット伯爵の無礼千万な態度だ。
これまでの人生。
理不尽な扱いも、胸えぐられるつらい出来事も。
アンは、ひととおり体験済みだった。
それらをいちいち真正面から受け止めて、自らの心と身体を痛めつけていられるほど、余裕ある生活をおくれていたわけではない。
苦痛など、右から左に受け流すことくらい容易くできなければ、日々、やっていかれはしなかった。
だって。
たとえ私が倒れても、面倒を見られるのは、私しかいないのだから……。
なのに、そんな自分が怒りのあまり、まんじりともできず。
転々と寝返りを打ちながら、白々と夜が明けていく窓の外を、ただ見つめているだなんて。
アンは憤懣やるかたなく息を荒らげながらも、自分自身に驚いていた。
ああもう、これ以上横になっていても、眠りにつくことは不可能だわ!
アンはむっくりと起き上がり、衣装戸棚の奥へと隠して置いた読書室の本を取り出した。
ひんやりとした明け方の空気に、つま先が凍える。
本を手に寝台にとって返して、アンはシーツの中へと潜り込んだ。
本は、十八世紀の植物事典の復刻版だった。
緻密なエッチング図版の横には、半ば潰れた活字がびっしりと並んでいる。
心を落ち着けようと、アンは文字をひたすら目で追う。
けれどそれは、一向に意味を紡がない。
アンはとうとう読書も諦めた。
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