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ふさぎ込んでいたアンの心は、すっきり、洗い流されたように晴れ渡る。
オーガストのひどい態度も、不名誉な噂に怯える気持ちも。
何もかもが綺麗に消え去っていた。
かすかな笑みをたたえながら、アンは首筋を伸ばして館に向かい歩いて行く。
そして、フランス窓のあるテラスへと、階段を上がるアンの目の前に現われたのは、なんとあの「気難し屋」の姿だった。
オーガストが、アンへと視線を向ける。
そのストロベリーブロンドの髪には、星の形の白百合が煌めいていた。
オーガストが目を瞠る。
「ミス・メレディス。その花は庭で? よくその百合を見つけられたな」
あら?
このお花って、なにか、それほど特別なのかしら。
アンは、オーガストの反応にこそ面食らった。
早足で庭を歩いてきたアンの頬は、上気して薄桃色に色づいている。
そのせいかデコルテの白さが、ひどく際立っていた。
後れ毛が細いうなじに乱れかかって、いつもとは違う、隙めいたものも醸し出されている。
それにしても――
「髪に花を飾る」だなんて。このガヴァネスが、そんな娘らしいことをするとは。
なかなかに驚きだ。
そんな事々を思いながら、オーガストはアンを見やった。
髪に挿した百合を確かめるようにして、アンがそっと、自らのおくれ毛に触れる。
ほっそりと長い指。爪は、透明な桜色だった。
その、ひどく無垢な色合いは、まるで、男が不用意に見てはならぬものであるかのように思えて。
オーガストは、少したじろいだ。
「……伯爵?」
アンが怪訝そうに小首を傾げる。
オーガストは慌てて言葉を続けた。
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