伯爵の嫉妬心

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伯爵の嫉妬心

23 アンが廊下へと出て、部屋の扉が閉まった。 オーガストは、エヴァンズに視線を向ける。 主人と執事の視線が合った。 沈黙が流れる。 それを破ったのは、オーガストの噴き出す声だった。 肩を震わせ、忍び笑いを洩らしながら、オーガストは顔を掌で覆う。 やがて堪え切れなくなったのか、オーガストの口から、盛大に笑い声が漏れ出した。 エヴァンズは、主の笑いの発作を、背筋を伸ばして佇みながら、呆気にとられて眺めることしかできない。 やっとのことで笑いをおさめたオーガストが、まなじりに滲んだ涙を指先で拭う。 「……まいったな、あの御婦人ときたら。ああ、ところでエヴァンズ。ひとつ訊いてもいいだろうか」 「わたくしめで、お答えできますことならば、なんなりと」 「僕の顔というのは、『人をたまらなく不愉快にさせる渋面』なのか?」 ひどく真面目くさって、オーガストは熟達の執事へと、そう訊ねた。  +++
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