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風疹もはしかもおたふく風邪も経験してワクチン接種も怠っていない。お相手がいないのだから勿論性病の恐れもない。精子ドナーとしてはかなり理想的な筈の私は、いざ行かん、と大海に航海に出る船乗りの如き気持ちで不妊治療を行っている専門のクリニックに向ったのだった。
「これに採ってきてください。終わりましたら蓋をして、窓口に置いてきてくださいね」
うら若き色白の看護師氏(なかなかに美しい女性である)は抑揚のない事務的な口調でそう言い、私に特殊な材質の蓋付きの容器を渡した。この工程を「採精」と言うそうだ。
向かうは採精室、「メンズルーム」である。
などと言っているが勿論初めての事、どきどきと胸を躍らせながらドアを開けると、こじんまりした個室にリクライニング・シートがあるだけという簡素な造りで少々拍子抜けであった。
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