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あれが、坂上さんの恋人だろうか。義憲が圭は駄目と言っていたのは、勝ち目がないと言うことだったのか。
ほの暗い、熱い炎が暴れだす。
スタッフルームから先ほどの男が出てきて、一瞬視線が合った。
「…いらっしゃい、ごゆっくりどうぞ」
低く落ち着いた、自信に満ちた声。俺は小さく頷いて、手元のグラスを握った。
まだ。まだ俺は坂上さんには追い付けないのか。
「圭、頼んだぞ」
その男の台詞に、坂上さんは拗ねた声で返事をしていた。
「意地悪だなあ」
頭に血が登った。
目眩がしそうなほどの、どす黒い怒りに支配され、俺はスツールから立ち上がりトイレに向かった。
中に滑り込みドアを閉め、荒い息を吐き出す。
「くそっ」
小さく呟いて、拳を握りしめ耐えた。
甘えたような、拗ねた坂上さんの声が、何度も頭の中で蘇る。
俺は呼吸を整えて、鏡を覗き込んだ。嫉妬で歪む自分の顔を睨み付けて、感情をセーブする。
徐々に落ち着きを取り戻した俺は、何食わぬ顔でカウンターに戻った。
先ほどの男はすでにおらず、坂上さんはチラリと俺を見てから、何故だかゆっくりと…嬉しそうに微笑んだ。
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