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「うらみを売る」
「望月恵理子様。」
廃ビルの屋上から身を乗り出しかけた彼女は、甲高い声に振り返る。
対交線上の入り口に 季節に似合わない裾長のコートを羽織った 猫型の仮面男が立っていた。
「ご逝去なされるのですか?」
「・・・だから何・・・」
「なぜです?」
「・・・ほっといてよ!!こんな世界生きてるだけ無駄なの!死にたいの!分かったらどっか行ってよ!気持ち悪いっ!!!」
望月恵理子という名の彼女は、息を切らせて叫んだ。
男は下を向き、子供向けの芝居のように身を翻す。
「うーん そうですかぁー。残念ですねー。あなたがご逝去なされたところで世界は大して変わりませんよ?あなたのお母様が数少ない貯金を切り崩してたった一人でご葬式の準備をして、失意の中あなたを弔う。ただそれだけです。あぁでも ご予算が足りないかもしれませんねぇー。親戚にも一切助けてもらえずどうするのでしょうーーー」
「・・・何が言いたいの・・・」
「つまりですね!」
男は彼女の反応を喜ぶように軽い足取りで近づいてきた。
「あなたがご逝去されたところで、極貧生活から抜け出したり、後輩の色仕掛け出世を憎んだり、別れた彼氏さんが帰ってきたりすることはない!!ということですよ♪」
得意げに両手を広げてみせる。
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