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夕闇の空を灰色の雲が覆い、土砂降りの雨が地面を打ちつけていた。簡素な家々が建てられた小さな村に、数十体の死体が転がっている。
ほとんどの家が壁や屋根を壊されていたが、損傷の少ない家が一軒だけあり、屋内には2つの人影があった。壁を背もたれにして俯いたまま座り込む黒髪の青年と、彼に寄り添うように隣に座る紫髪の男。
部屋に明かりはなく、暗い。
「話したいことがあるんだけど、いい?」
男は見守るような目つきで、穏やかに尋ねた。その様は好青年を思わせるものの、心配そうに眉を下げる温厚な表情が気弱な印象を与える。
黒髪の青年――レイトはチラリと顔を見せ、男を一瞥した。目の周りが、薄っすらと赤く腫れている。
返事をしようと口を開いたが、代わりに咳が出た。コンコンと、後を引くような渇いた咳だ。
「水を持ってくるよ」
そう言って立ち上がろうとする男の腕を、レイトが掴む。
「平気だから…………続けてくれ」
掠れた声で引き留めると、男は腰を下ろして座り直した。
間を置いてから、男は話すより先に手を動かした。床を指でトントンと叩く。
「これ、村で拾ったんだ」
指し示す先へ目をやると、いつの間にか指輪が置かれていた。細いリングが3つ重なり合ってできた、トリニティリングだ。
「村に着いたら、ちょうど悪魔たちが出ていったんだけど……」
悪魔。
そうか、あれは悪魔だったのか。
心の中で納得しながら、男の話に耳を傾ける。
「その指輪を落としていくのを見たんだ。ヤツらにとって大事な物なら、取りに戻って来るかもしれない。その時に、親御さんを返すように交渉しよう」
思いがけない言葉に、レイトの肩がピクリと動いた。下を向いていた顔を少し上げ、男を見る。
「それって、どういう……」
「えっと……あの中に親御さんは居なかったんだよね?」
あの中。
それを指す光景がフラッシュバックし、体の内側から傷口を広げられるような痛みを感じた。
しかし彼に悪気が無いのは理解しているので、ただ頷くだけに留める。
「親御さんが連れていかれる時、 "完全に死んでない" って言われたんでしょ? まだ望みはある。ヤツらが来なかったとしても、こっちから探しに行こう」
男の手が、レイトの頭をやんわりと撫でた。
隣にいる友人は、事後、動揺してまともに喋れなかった俺の話を聞いてくれていた。今もこうして傍にいてくれるし、両親への望みを見出してくれる。
「……どうして、そこまでしてくれんの」
レイトが尋ねると、頭を撫でる男の手が止まった。頭から手が離れる。
何か変な事を聞いてしまったのだろうかと不安に駆られていると、男の方へ体が引き寄せられた。
男の両腕が、レイトの体を包む。
「唯一の友達だからね。僕が孤独じゃないのは、君がいてくれるおかげだよ」
男の腕に力が入る。
レイトは彼にしがみつき、胸に顔を埋めた。
「お前がいなかったら俺……1人になってた」
「大丈夫。僕がいるよ」
冷え切った空気が張り詰める中、男の言葉と体温が、レイトにぬくもりを与えた。彼は、自分にとっても唯一となった友人だ。
2人のいる家の外では、未だ強い雨が降り続けていた。ぶ厚い雲が月明かりを遮っているせいで闇夜のように暗い。
その村の存在を隠すかのように、暗闇の中で雨の音が鳴り響いていた――
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