悪魔は憑けても憑かれないよう気をつけてね

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「うわっ!」  グイとその腕に引き寄せられ、飛び込むようにつんのめるレイト。間髪を入れずに強烈な一撃がみぞおちに打ち込まれると、その勢いで後方の壁まで一直線に飛ばされた。背中を壁に強く打ち付け、尻から乱暴に着地する。  やっべえ、体がめちゃくちゃ痛…………  ……くない。  殴られたはずの腹に手を当ててみたが、痛みを感じなかった。壁に叩きつけられるほどの力で殴り飛ばされたはずなのに、打った所に痛みが無い。  今までに経験したことが無いほどの痛みで、体の感覚が無くなっているのだろうか。という謎の原理を思いついたので、試しに立ち上がってみることにした。  地面をつく手にも、立ち上がるまでに動いた体のあちこちにも、感覚がある。問題なさそう。  何が起きたんだ? もしかしてマジで俺の背面はとんでもなく強いのか? いや、さっき腹を殴られたから背面に限った事じゃない。  とにかく。致命傷になり得る攻撃を受けて、無事でいられたのはラッキーだ。  原因不明のミラクルに感動したいところだが、それに浸っている場合では無い。  さきほどレイトを殴り飛ばした男が、ゆっくりとこちらに向かってきていた。人形のように横たわっていた周りの人たちも、次々と起き上がっている。  死んだように転がってたことを考えると、ヤツらが動いているのが、どうにも信じ難い。しかし、現に目の当たりにしている。  それと、さっきの男は間違いなく自分に攻撃してきた。敵と見なして良いだろう。  突然動き出した向かいの集団を睨みながら、レイトは左手のひらを上に向けた。手のひらを起点に白い粒子が集まり、一瞬で長柄(ながえ)武器を形成する。その柄を左手で握り、支えるように右手を添えた。  レイトが両手で握りしめている武器は、全体が金属製の漆黒のハルバード。長柄は彼の身長以上あり、槍の穂先に大きな斧頭、その反対側にダガーのような諸刃が付いている。  レイトはハルバードの穂先を後ろに向けて構え、スナップを効かせて斧の刃先を下に向けた。 「近づいたらぶん殴るぞ」  集団を睨みながら忠告するが、彼らはレイトの言葉を完全に無視してこちらに向かってくる。誰一人として、足を止めることも無ければ、返事も無い。  レイトはキョトンとして、パチパチと数回(まばた)きをした。今度は少し多めに息を吸い込んでから声を出す。 「来たら殴るぞー? いいのかー? 冗談じゃねーんだからなー?」  声のボリュームを上げてみたが、彼らは変わらずこちらに向かってくる。  またしてもスルー。まるでこちらの声が聞こえてないかのような振る舞いだ。 「よーし、わかった」  何かを悟ったように、小さくため息を吐くレイト。一息つくと、眉間にしわを寄せながら目を力ませ、眼光鋭く彼らを見据えた。  アイツら、俺が子供だからって見くびってやがる。 「後悔させてやらぁ!」  レイトは長柄を握りしめ、ハルバードを素早く()ぎ払った。目前に来ていた3人を斧の側面で捉えると、その瞬間に一層力を込め、勢いよく振り切って払い飛ばす。3人は真横に一直線の軌道を描き、ドンと大きな音を立てて壁に叩きつけられた。
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