悪魔は憑けても憑かれないよう気をつけてね

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 レイトは払い飛ばした方を一瞥した後、依然として近づいて来る集団に視線を戻す。  ヤツら、(ひる)む気配がない。全員気絶させなきゃダメか? まあ、20人くらいなら大したことないけど。  ハルバードを今度は右手側で構え、間合いを詰める。狙いを定めて勢いよく左に薙ぎ払うと、一気に6人を巻き込み、まとめて殴り飛ばした。  彼らは放射状を描くように別方向へ飛んでいくと、壁に衝突したり、地面に着地して滑り込んだりした。  残りは半分くらいか。全員を動けなくさせた所でここから出られる保障は無いが、襲ってくるのを黙って受け入れる訳にはいかない。  残りの集団に突っ込もうと踏み込んだ時、視界の右端――最初に薙ぎ払った3人がいる場所から、何かが動く気配を感じた。その正体を横目で確かめると、例の3人がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。  ええええええええええ!?  気絶させたと思ってたのに……ピンピンしてるじゃん。  レイトは前進しかけていた足を止めた。まさかと思い、ついさっき薙ぎ払った6人がいる反対側へ視線を移す。  1人、また1人と、何とも無さそうな素振りで立ち上がろうとしていた。  いやいやいや。どうなってんだよ、これ……  想定外の状況に動揺していると、何かを引きずるような物音が頭上から聞こえてきた。 「レイト君、強すぎじゃない?」  聞き覚えのある声。反射的に見上げると、屋根の窓からこちらを見下ろすマスターがいた。胸から上しか見えないが、寝そべった体勢をしているように見える。彼は困ったように笑っていた。 「最初の一撃でショック死でもしてくれたら楽だったのに……よく平気だったね」  "最初の一撃" と彼の口から告げられたことで、レイトは確信した。それに、どうやってあそこに登ったか知らないが、あれは高みの見物をしているのだろう。  この状況はマスターが仕組んだという事で間違いない。  レイトは上目遣いでマスターを睨んだ。 「おい、もう敬語使わないからな」 「それ最初に言うんだ?」  マスターは目尻のしわを深くして「ハハハ」と笑った。 「その武器、使ってる人なかなか見ないからさ、殴るだけじゃなくて他の芸当も見せてよ」  マスターの目線はずっと下を向いており、レイトを見据えていた。  あの人に芸を披露するつもりはないし、好きで殴り続けてるわけじゃない。  でも、このままだと体力を消耗するだけだ。コイツらの動きを止めるなら、斬った方が効率がいいけど――  考え込んでいる最中、背後に気配を感じ、レイトはすかさず振り返った。その遠心力でハルバードを横に払うと、近づいてきた(やから)2人に命中させ、部屋の端まで遠ざける。  マスターはその身のこなしを観察しながら、レイトに声をかけた。 「もしかして殴って甚振(いたぶ)るのが好きなの? ……あ! 撲殺少年レイトくん、ってどう?」 「"どう" って何が? 却下だ、却下!」 「そんな……我ながらいいネーミングだと思ったのに。でも語呂はバッチリじゃない?」  マスターはペロッと舌を出しながらウインクをかまし、親指を立てる。そのふざけた態度に苛立ちを覚え、レイトは小さく舌打ちした。 「そもそも俺は!」  一度言葉を切り、殴りかかってくる女の攻撃をハルバードの刃で受け止めた。押し返して女を遠ざけながら、続きを話す。 「撲殺なんて、好きでも何でも無いんですよ!」 「ねえ、知ってる? 敬語に戻されると距離を置かれた気分になるんだよ?」 「うわっ、無意識だった!」 「まあでも、いつも通りの方がしっくりくるね」  マスターは満足そうに(うなず)き、頬杖をついた。  これまで癒しだと思っていたマスターの笑顔が、今では腹立たしくて仕方がない。
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