悪魔は憑けても憑かれないよう気をつけてね

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 それより、この危機的状況をどうにかしなくては。  どうしてヤツら、いくら薙ぎ払っても立ち上がってくるんだ。素直に負けを認めて逃げ帰ってほしい。  この時のレイトは "逆境に立ち向かう主人公たちに攻撃され続けるラスボス" のような気持ちになっていた。  ところで今更だけど、マスターは何を目的としてこんな事をしてるんだ? 彼の目論見が、この局面を打開するヒントになるかもしれない。 「マスターはどうして俺を殺そうとするんですか?」  頭上のマスターに質問を投げるが、レイトの視線は周囲に向いていた。近づいて来る集団を警戒し、距離を取る。  防衛に集中していたから、またナチュラルに敬語になってしまった。もういいや。むしろ距離を置いてやろうとすら思う。 「身を守りながら俺の話し相手にもなってくれるなんて、やっぱりレイト君は優しいなあ」  マスターは「ふふ」と、穏やかな笑い声を含め、感心した。 「特別に教えてあげるよ。暇だし」  笑顔を残したまま、なかなか攻撃しなくなったレイトを退屈そうに見下ろす。 「俺、死体を操れるんだけどさ――」 「すんません。いきなりワケわかんないっす」 「早いよ。せめてもう少し聞いてから言って」  レイトはハルバードの斧刃を使って攻撃を受け止めながら、人と人との隙間をひらりと(くぐ)り抜けていた。 「作業しながらだと聞くのに集中できなくて。コイツらが攻撃をやめてくれたら考える余裕ができるかもしれないですねー」  冗談半分、残りはダメ元で言ってみると、マスターは「ああ」と納得するように呟いた。 「レイト君はオツムが弱いのかな? 配慮が足りなくてごめんね」  謝っている割には軽快な声をしている。  あんの野郎……気に(さわ)る言い方しやがって!  しつこく襲いかかってくる集団を相手にしていることもあり、レイトのストレスは少しずつ溜まっていた。頭に血が上り、愚痴をこぼそうと口を開きかけた時――  突然、レイトの視界が暗くなった。素直に驚き、びくりと体が反応する。正確には視界が暗くなったと言うより、上から何かがやってきて、自分より背の高いそれが目の前に立っていた。 「待たせたわね」  昨日今日で何度も聞いた、中性的な声。その声を最後に聞いてから長い時間が経過した訳でもないのに、どこか懐かしく感じる。  自分の視界を遮っているオネエ口調の男を見上げると、それに応えるかのようなタイミングで彼が振り返った。 「あら? ガードの魔法が解けてるじゃない。念のためだったけど、()けといて正解だったわ」  男がレイトの頭にポンと手を乗せると、レイトは全身を何かに包まれるような感覚を覚えた。その感覚から解放された後、男に頭を撫でくりまわされ、髪をぐしゃぐしゃにされる。  レイトは髪の毛先があちこちに跳ねた頭を直す素振りも見せず、男を見据えていた。 「ディアン……来るならもうちょっと早く来てくれよ」 「来てやったのにその言い草は何? マスターの言う通り、オツムが弱いのかしら?」 「何だと!? って、こんなことしてる場合じゃ……!」  ついさっきまで応戦していたのだから。  レイトは急いで周囲を見渡す。それと同時に、視界のギリギリで察知できる程度だが、左手側の壁の上方に奇妙な違和感を感じた。敵の動きを警戒すべきなのに、その奇妙な違和感が気になって仕方がない。思わず左上を見上げると、レイトはその光景に目を見張った。  アヴィがパルグルを背負いながら、本来の重力を無視して壁を歩いている。 「ブェッ!!!」  シュールな光景に見入っていたレイトは、迫ってきた敵に右頬を殴られた。
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