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レイトは殴られた反動で、左によろける。転びそうになるのを何とか踏ん張りながら右手で頬を押さえ、攻撃してきた敵を鋭く睨んだ。
「てめえ、よくも……!」
ハルバードを握っている左手に力を入れ、憂さ晴らしするかのような荒々しさで、敵を薙ぎ払う。片手だけでも十分勢いがあり、もろに食らった男は凄まじい速さでぶっ飛ばされた。
クリティカルヒットして痛快な気分に浸りながら、殴られた頬をペタペタと触って安否を確認する。
「……痛くない」
口の中が切れてる感じもない。
そういえば最初に食らったみぞおちパンチの時にも、似た事が起きたような。
レイトは不思議な現象に関心しながら、ムニムニと頬を掴んでいた。
「はあ……そんな調子だから、ガードが解けてたのね」
声に反応してディアンを見上げると、彼は呆れた表情でレイトを見ていた。
いまいちピンと来ず、ディアンの言葉の意味を考える。少ししてから、先ほど「ガードがどうのこうの」と話していたのを思い出した。
「俺のほっぺたが無事なのは、ガード? ってやつのおかげ?」
「ええ、役に立ってるでしょ? 攻撃をある程度まで防げる魔法なの」
「まあ……いやでも、俺が殴られるのを黙って見てたのは感心しないな。外道か?」
「何よ、怪我してないんだから問題ないでしょ?」
「護衛対象が殴られたんだぞ? 絵面的にアウトだろ。ボディーガードとしてどうなんだ」
「いちいちうるさいわね。あれくらいなら避けられると思ってたんだけど……アタシ、レイトのこと買いかぶってたみたいね。謝るわ」
「俺が雑魚みたいな言い方やめろ。そもそも、あんな不可思議なモン見せられたら誰だって気ぃ取られるだろうが!」
そう言いながらレイトは、気を取られる元凶となった現場を指す。
壁を歩いていたアヴィが、ちょうど地面に着地するところだった。パルグルが素直に背負われてるのが何とも言えない。
「ヴァンパイアが壁を歩いて何がおかしいのよ?」
「うっわー。そうだよ、お前ら人間じゃねーんだった。もうダメだ、常識がわからなくなる」
レイトは眉間を押さえながら項垂れた。
少し冷静になって思ったけど、ディアンがガードというモノを掛けてくれなかったら、みぞおちを殴られた時に死んでいたかも知れないんだよな。
バツの悪い気持ちを表情で悟られまいと、俯いたままディアンに声をかける。
「……とにかく助かった。守られてなかったら、別の意味でいたいけな男の子になってたと思う」
「その "いたいけ" ネタ、いい加減やめたら? アンタたいして可愛くないし、いつまでも同じネタでウケ狙わないでちょうだい」
「あ"ぁ!? 誰の顔がウケ狙いだって!?」
「そこまで言ってないわよ」
ディアンは、自称 "いたいけな男の子" の被害妄想に呆れ果て、深いため息を漏らす。
レイトは声を荒げた拍子に顔を上げてディアンを睨んでいたが、「宿で別れた時のディアンと何か雰囲気が違う」と別の意味で凝視していた。すぐにその要因に気がつくと、「あ!」とディアンを指さす。
「ポニーテールになってる!!!」
「うるさ……まさか今気づいたの?」
ディアンの髪は、ユキに結ってもらったままだった。
「だって違和感ねーから。へえー、意外と似合うな」
レイトはディアンの後ろに回り、髪をいじり始めた。
ここに来てからほぼ会話しかしてないのに、ディアンは早々に疲れを感じていた。こんな茶番さっさとやめなくては、と長めの深呼吸をひとつする。
「レイト。気、緩みすぎ。アンタのターゲットがすぐそこに来てるわよ?」
ディアンは自分の髪を観察するレイトに構わず頭を動かし、左側へ視線を送った。
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