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顔の向きを固定されたレイトは、半ば強制的にマスターと目が合う。ディアンはそれを察知し、レイトの頭から手を離した。
マスターはレイトと目を合わせたまま、にっこりと微笑んでいる。
「驚いた。彼ら、人間じゃなかったんだ?」
薄暗い中でも、魔物姿のアヴィとパルグルが見えたらしい。あるいは、壁を歩くアヴィを見て感づいていたのかもしれない。
「どうして魔物なんかと一緒にいるの? 彼らに脅されてるとか?」
マスターはレイトに話しかけながら、じりじりと歩み寄る。しかし、彼の言葉に反応したのはディアンだった。
「そういうマスターはどうなのよ? これからも悪魔と一緒に過ごす気?」
マスターの言葉が気に入らなかったのか、彼を見据えるディアンの目は鋭さを含んでいる。
「………………悪魔って?」
レイトの目が点になっていた。つぶらな瞳でディアンを見ている。
そういえばレイトは知らないのだった。
ディアンは「そうだったわね」と思い出したように呟き、小さく息を吐いた。
「簡単に説明するから、どうにか受け入れてちょうだい」
前置きしながら、ニヤニヤと笑みを浮かべて歩み寄ってくるマスターを睨んだ。レイトも、近づいて来るマスターを警戒し、いつでも反応できるよう彼の動きを観察している。
マスターへ視線が集中する中、ディアンは話を切り出した。
「実はあの人、悪魔に憑りつかれてて……」
「は?」
「悪魔の力で、死体を操れるようになってるの。アンタを殺そうとするのも、手元の死体を増やすためだと思うわ」
かなりざっくりとした説明。これで理解してくれてると助かるのだが……レイトから反応が無い。
心配になり横目でレイトを見ると、彼の口は「は」の形のまま固まっていた。
「口開いたままだと虫が入るわよ」
「あ? ああ……悪い、混乱してた。もう1回言ってくんね?」
急にこんな話をして混乱するのは当然。レイトの反応は想定内だ。
「わかったわ。簡潔に答えてあげる」
レイトにしっかり声が届くよう、ディアンはハッキリと口を動かした。
「つまり、マスターは悪魔に憑りつかれてるってことよ」
「さっき言ってた事と一緒じゃね?」
思わずディアンの方を向き、マスターから目を離した。その刹那、体のすぐ正面に何かが急接近してきたのを気配で感じ、すかさず目線だけ正面に戻す。
瞬時に距離を縮めてきたマスターが、今にも殴りかかろうと迫っていた。振り上げている右手が、いつの間にか黒い大きな手に変化している。金属製の籠手から鉤爪が伸びたような、右手そのものが武器のようになっていた。
「おしゃべりが好きなのかな?」
子供に優しく注意するような口調とは裏腹に、鋭く伸びた指先でレイトに斬りかかった。レイトは咄嗟に距離を取り、ハルバードを両手で握りしめて素早く振り上げる。金属音を響かせ、間一髪で攻撃を受け止めた。
その直後、黒い手がもう1つ現れ、レイトの胴体に斬りかかる。指先が胴体に触れる前にハルバードを力尽くで押し込み、マスターを退けた。
レイトは後退りながら体勢を立て直し、マスターを注意深く凝視する。俯きがちな彼の表情を伺っていると、口角がニヤリと引き上がるのがわずかに見えた。
「ほう……なかなかやるな、小僧。じゃなかった、レイト君」
「急なキャラ変やめてもらえます?」
とうとうマスターが、あからさまな陽動作戦に出やがった。
「レイト、油断しないで。例の悪魔がマスターの意識を奪ってるわ」
「えっ?」
ディアンの警告に驚きつつ、マスターの姿をしたその悪魔を見据える。
先程のディアンの説明は大体わからなかったが、とにかくマスターが悪魔に憑りつかれてる事はわかった。その悪魔が今、マスターの意識を乗っ取ってる、という事なのか?
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