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「チッ、勘のいい野郎だ」
マスターの口から出た言葉は、今までの彼の口調とは明らかに異なっていた。
「オレの正体を見破るとは……アンタ、只者じゃねぇな?」
マスターの皮を被った悪魔は、目玉をギロリと動かしてディアンを睨む。目が合うと、ディアンはフッと鼻で笑った。
「そのセリフ、小物感がすごいわね」
「ハッ、小物だと? 人間のくせにナメたことを言う」
悪魔はディアンを睨みながら嘲笑う。しかしディアンは何も言い返さず、悪魔をジッと見つめていた。
悪魔の頭からつま先までゆっくりと視線を移動させ、小さくため息をついて一呼吸置く。
「レイト1人で十分そうね。アタシはお暇するわ」
「このオレを値踏みしてたのか?」
「2人の様子を見てくるから、終わったら呼んでちょうだい」
ディアンは、血相を変えて鋭い目つきをする悪魔を完全に無視し、レイトに声をかけた。それからレイトたちに背を向け、死体の集団が隔離されている方へ歩き出す。
悪魔は自分をコケにした男の背中を見ながら、額に青筋を立て、ギリリと歯を食いしばっていた。
「どうやら先に死にてぇみたいだな……!」
両手の鋭い指先をディアンに向け、激情に身を任せて突進した。しかしその直後、横殴りで迫るハルバードが進行方向上に現れる。行く手を阻まれ横へ飛んで回避すると、頬すれすれでハルバードが通り過ぎ、振り切った後の風圧を肌で感じた。
自分を襲ったハルバードの向こう側を横目で見ると、鋭い目つきの青年と目が合う。
「お前がマスターを人殺しにしたのか?」
レイトは刺し殺すような視線で悪魔を睨んでいた。
悪魔は口角を上げ、チラリと歯を見せて笑う。
「おいおい……言いがかりは困るぜ、ガキ」
吐き捨てるように言い、レイトに飛びかかった。空中で体を仰反らせながら両手を振り上げ、鋭い指先をレイトに向けて勢いよく振り下ろす。
レイトはハルバードの刃先を悪魔に向け、その両手に斬りかかった。接触時に金属音を響かせながらハルバードを振り切り、両手を弾いた。
悪魔はすぐに体勢を立て直し、ニヤリと笑みを深める。
「今までのヤツらも、お前のことも、殺すと決めたのはカリオだ。オレはただ協力してやってるだけさ」
カリオというのは、この流れだとたぶんマスターの名前だろう。
「どうしてマスターがそんなこと――」
話の最中、唐突に悪魔が突進してきた。距離を詰めながら、その勢いで右手を突き出す。
レイトは歯を食いしばりながら両手に力を入れ、ハルバードを斬りつけて攻撃を弾いた。
「ほう、いい反応だ。少しだけ話に付き合ってやる」
悪魔は嘲笑い、からかうような視線をレイトに向けた。
「カリオは金に困ってたのさ。1番手っ取り早い解決策は、他人のモノを奪うことだ。ついでに殺しちまえば、仕返しされることもないだろ?」
ニタニタと笑いながら話す悪魔。レイトは彼の攻撃を警戒し、静かに臨戦態勢を整える。
「殺しはメリットが多い。相手の持ち金がそのまま手に入る。金目のモンは売ればいい。それと、カリオには死体を操る能力を与えてやった。その力を使えば、生者には到底できない事も意のままにこなせるし、殺した分だけ人手が増える。まあ、他にも何か言った気もするが……こんな感じで、懇切丁寧に提案してやったってワケよ」
悪魔は片方の口角を上げ、誇らしげに笑った。
死体を操る。そういえば、マスターもディアンも言ってた気がする。わけわかんねーと思ってたけど、コイツが与えた能力のことだったのか。
え、じゃあ俺、さっきまで死体に向かって必死に話しかけてたのか?
「なんだよ、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃねーか」
「破廉恥なこと言った覚えはねぇぞ」
「悪い、こっちの話だ」
つい口に出してしまったことを訂正するも、悪魔は訝しげな目でレイトを見ていた。
"破廉恥" で思い出したけど、そういえばビルがいない。それはともかく、悪魔は全員ビルのような変態という訳じゃないのか。いや、それもともかく……
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