51人が本棚に入れています
本棚に追加
「つーか、その……マスターの事よく知ってる訳じゃねーけど、お前みたいな胡散臭いヤツに縋るとは思えねーよ」
この数日で見る限り、客とか……取引先? とか、そういう人たちからも信頼されてそうだった。ランベルトさんもユキも人当たりがいいし、それはマスターの影響なんじゃないかと思う。
マスターはちょっと天然だけどアホでは無かった(と思う)から、こんな怪しいヤツに頼らずとも相談できる相手の1人や2人いたんじゃないか?
あれこれ思案していると、ニヤリと歯を見せて笑う悪魔が目に入った。
「冷静だったらそういう判断になるよなぁ? あの時のカリオはかなり困惑していたんだ」
悪魔は腕を組んで、片足に重心を乗せた。
「他人を頼るにしても、ソイツを道連れに破産するかもしれない。そうなったら家族はどうなる? 嫁と娘に身売りでもさせりゃあ生計は立てられるだろうな。たがオレの力を使えば、周りを巻き込まずに解決できる。最初の1人さえ殺せりゃあ、後の殺しは死体に任せられるからな。上手くいけばすぐに経営を立て直せるだろう。……大方、そんな話をしてやった」
斜め上に向いていた悪魔の視線が、レイトに向けられる。
「結局、カリオはオレに頼ることにしたのさ。判断力が鈍った人間相手は仕事が楽でいい」
悪魔は見下す目つきをし、笑いながら話した。
悪魔が話している間、レイトは真剣な表情で彼を見据えていた。
「確認したいことがある」
視線を変えず、悪魔に尋ねる。
「お前はマスターの体から……幽体離脱? とか、できるのか?」
「質問の意味がわからねぇな? オレは霊魂じゃねぇぞ」
「えっと……マスターに憑くのをやめるって意味」
質問の仕方はバカ丸出しだったが、レイトの内心は穏やかでない。
気持ちが不安定な状態の時に、脅しのような言葉で不安を煽られたんだ。悪魔を選んだ時のマスターは正気では無かっただろう。正気に戻ったとしても、それまでに誰かを手にかけてしまっていれば、今度は罪悪感に襲われる。後戻りはできない。
"人を殺した" という事実は消えないのだから。
あの悪魔がそれをわかっていない訳がないし、むしろそれを狙ったようにしか考えられない。
レイトは、腹の内で湧き上がるものを押し殺しながら悪魔を睨む。
そんなレイトをよそに、悪魔は組んでいた腕を解き、歩き出した。
「もうじきコイツの魂を完全に取り込めるんだ。そしたらこの体はオレのモノになる。今更離れるなんて勿体無ぇことしねぇよ」
悪魔にとどめを刺す際にマスターの体から離れてしまうことを懸念していたが、あの様子なら簡単に離れてしまうことは無さそうだ。憑りついた悪魔も一緒に殺せるか知らないけど。
レイトは、歩みを止めない悪魔をジッと見ながら、臨戦態勢をとる。
「でも、そうだな……」
だんだんと近づいてくる悪魔は、話しながらニタァと不気味な笑みを浮かべた。
「次はお前に憑りつくのも悪くねぇ」
悪魔は両手の鋭い指先をレイトに向けると、踏み込んで一気に距離を詰めた。
最初のコメントを投稿しよう!