悪魔は憑けても憑かれないよう気をつけてね

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「つーか、その……マスターの事よく知ってる訳じゃねーけど、お前みたいな胡散臭(うさんくさ)いヤツに(すが)るとは思えねーよ」  この数日で見る限り、客とか……取引先? とか、そういう人たちからも信頼されてそうだった。ランベルトさんもユキも人当たりがいいし、それはマスターの影響なんじゃないかと思う。  マスターはちょっと天然だけどアホでは無かった(と思う)から、こんな怪しいヤツに頼らずとも相談できる相手の1人や2人いたんじゃないか?  あれこれ思案していると、ニヤリと歯を見せて笑う悪魔が目に入った。 「冷静だったらそういう判断になるよなぁ? あの時のカリオはかなり困惑していたんだ」  悪魔は腕を組んで、片足に重心を乗せた。 「他人を頼るにしても、ソイツを道連れに破産するかもしれない。そうなったら家族はどうなる? 嫁と娘に身売りでもさせりゃあ生計は立てられるだろうな。たがオレの力を使えば、周りを巻き込まずに解決できる。最初の1人さえ殺せりゃあ、後の殺しは死体に任せられるからな。上手くいけばすぐに経営を立て直せるだろう。……大方(おおかた)、そんな話をしてやった」  斜め上に向いていた悪魔の視線が、レイトに向けられる。 「結局、カリオはオレに頼ることにしたのさ。判断力が鈍った人間相手は仕事が楽でいい」  悪魔は見下す目つきをし、笑いながら話した。  悪魔が話している間、レイトは真剣な表情で彼を見据えていた。 「確認したいことがある」  視線を変えず、悪魔に尋ねる。 「お前はマスターの体から……幽体離脱? とか、できるのか?」 「質問の意味がわからねぇな? オレは霊魂じゃねぇぞ」 「えっと……マスターに憑くのをやめるって意味」  質問の仕方はバカ丸出しだったが、レイトの内心は穏やかでない。  気持ちが不安定な状態の時に、脅しのような言葉で不安を(あお)られたんだ。悪魔を選んだ時のマスターは正気では無かっただろう。正気に戻ったとしても、それまでに誰かを手にかけてしまっていれば、今度は罪悪感に襲われる。後戻りはできない。  "人を殺した" という事実は消えないのだから。  あの悪魔がそれをわかっていない訳がないし、むしろそれを狙ったようにしか考えられない。  レイトは、腹の内で湧き上がるものを押し殺しながら悪魔を睨む。  そんなレイトをよそに、悪魔は組んでいた腕を解き、歩き出した。 「もうじきコイツの魂を完全に取り込めるんだ。そしたらこの体はオレのモノになる。今更離れるなんて勿体()ぇことしねぇよ」  悪魔にとどめを刺す際にマスターの体から離れてしまうことを懸念していたが、あの様子なら簡単に離れてしまうことは無さそうだ。憑りついた悪魔も一緒に殺せるか知らないけど。  レイトは、歩みを止めない悪魔をジッと見ながら、臨戦態勢をとる。 「でも、そうだな……」  だんだんと近づいてくる悪魔は、話しながらニタァと不気味な笑みを浮かべた。 「次はお前に憑りつくのも悪くねぇ」  悪魔は両手の鋭い指先をレイトに向けると、踏み込んで一気に距離を詰めた。
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