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「バカか! 断固拒否だ!」
レイトはすかさずハルバードで振り払う。斬りかかってくる右手を払いのけるが、間髪を入れず左手が顔面に迫ってきた。顔の前に刃の側面が来るように構え、打撃を受け止める。
しかし、刃で視界が遮られた一瞬で、ハルバードの斧頭が鷲掴みにされた。振り払おうと両手に力を入れたが、反対の手が伸びてきて、レイトの両手を押さえ込むように柄ごと握りしめた。
ハルバードの向こう側から、不敵な笑みを浮かべる悪魔と目が合う。
「最初はただのクソガキとしか思ってなかったが……」
「クソガキ言うな」
「そう怒るな。オレはお前の性格を買っている」
「は?」
「接客が不満で殺しを働くなんて、ぶっ飛んでるじゃねぇか」
やべえ、そういう設定にしてるんだった。
「オレと組まないか? 見たところ魔物に抵抗ねぇだろ? お前の体に憑かせてくれるなら、望みに合わせた能力をやる」
あたかもウィンウィンのような言い方をしているが、憑りつかれたら魂を取られるに違いない。
と考えたあたりで、ふと思い出した。
俺の左目は悪魔除けになっているから、悪魔に魂をとられることはない。そうディアンが説明していた。実際に俺の魂に触れた代償とか何とかで、ビルが血を吐いたのを見ている。
コイツが俺に憑りついたら、同じようなことが起きるのだろうか。
試しに憑かせてみるか……?
「いや、無理。絶対無理。生理的に受け付けない」
「拒絶の仕方がえげつないな。女子か?」
「つーか俺に憑りつくとしたら、マスターの魂を取り込んだ後だろ? なおさら無理」
マスターの魂が本来の目的だ。この悪魔が先に魂を取り込んでしまったら、ここまでの苦労が水の泡になる。
もっと早く――マスターと散歩している最中に隙を見て殺れていれば、こんな複雑な状況にならなかったのかもしれない。でも、悪魔が意識を乗っ取っている今、心構えとしてはいくらか殺りやすい。
とにかく、先延ばしにするのはもう止めだ。
レイトは足の裏を悪魔に向けるように左足を上げた。
「いい加減離れろ!」
突き刺すような勢いで、悪魔の腹めがけて蹴り込んだ。見事に命中し、悪魔の手がハルバードから離れる。
悪魔は咳き込みながら俯き、よろけるように後退った。
「ってぇ…………足癖の悪いガキ――」
鋭い目つきで顔を上げた途端、ハルバードの穂先が目の前に飛び込んできた。咄嗟にのけぞった所を、姿勢を低くしたレイトに足を払われ、思い切り尻をつく。
見上げた時には既に、ハルバードを振り上げているレイトがいた。斜めに構えられたハルバードが、自分の首を横断する軌道で振り下ろされた。
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