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レイトの告白
パルグルとアヴィは、マスターが操っていた死体たちを閉じ込めていた空間で、部屋の壁を背にして座り、寛いでいた。彼らの周りには、もともと人の形をしていたであろうモノたちの残骸が散らかっている。
パルグルは隣のヴァンパイアを横目で見た。
「なあ、ダイソン」
ダイソンと呼ばれたヴァンパイアは、パルグルに訝しげな視線を向ける。
「アヴィですけど? 私って名前間違われるほど影薄いですか?」
「まあ落ち着け。アレを見ろ」
パルグルは目の前に転がっている胴体を見ながら、それを指さした。
「あんだけ干からびるほど血ぃ吸ったんだろ? お前の吸引力、やべえって事なんだよ」
「ヴァンパイアならあれくらい出来ますけど……?」
「あとホラ。オレが喰う分の何体か、適度に血抜きしてくれただろ? おかげで血まみれにならずに喰えた」
アヴィは思わぬ高評価に呆然としながらパルグルを見た。パルグルは地面に散らばった残骸を眺めたまま続ける。
「最大吸引力はえげつないが、微調整が可能」
一度言葉を切り、アヴィに向き直る。
「お前はダイソンなんだよ」
「すみません。意味がわからないです」
「なあ、旦那はどう思う?」
腑に落ちないアヴィをよそに、パルグルは少し離れた場所にいるディアンに声をかけた。ディアンは部屋の壁を背もたれにして立っており、部屋の空間を隔てている壁の向こう側を見ていたが、パルグルの呼びかけに反応して彼らの方へ視線を向けた。
「せめて元の名前も入れてあげたら? アヴィソンなんてどう?」
「ディーさん……?」
この訳の分からない話にディアンが乗るとは思わなかったのだろう。アヴィは唖然としている。
パルグルは顎に手を当て、考える素振りを見せた。
「アヴィソンか……そこまで来たらデイヴィッドソンって呼びてぇな」
そう言いながら、アヴィの肩に手を置くパルグル。
「どうだ? デイヴィッドソン」
「アヴィなのでお断りします」
「……それもそうか。お前がデイヴィッドソンとか、世界中のデイヴィッドソンに失礼だよな」
「さっきから何なんですか? そちらがその気なら私も言わせてもらいますけど」
アヴィは散らばっている残骸をいくつか見てから、目を細くしてパルグルを睨む。
「貴方、太ももばかり食べてましたよね」
「おう、一番好きな部位だからな」
「さては太ももフェチですね?」
「あ? 何言ってんだ?」
意味わからん選手権。今度はアヴィの反撃が始まる。
「とぼけても無駄です。どうせ膝枕されたい願望があるんでしょう!」
「ねえよ! 食の好みをフェチと一緒にすんな! だいたいオレは、膝枕されるより腕枕してやりてえ方だよ!」
「貴様の腕枕なんて心底どうでもいい! 人の性癖をとやかく言うつもりはありませんでしたが、もう少し自重したらどうです? あからさまな太ももハンターはドン引きされますよ!」
「性癖じゃねーから! お前こそ、そのエロ思考どうにかしろよ!」
「エロじゃないです。紳士の嗜みです」
「俺が言うのもなんだけど、お前は紳士をナメてる」
パルグルはため息をついた。一呼吸置き、アヴィから視線を逸らす。
「あの佇まいを見ろ。紳士はともかく、せめて、あれくらいクールになれ」
パルグルの視線の先にはディアンがいた。先ほど声をかけた時と同じく、壁にもたれて立っており、遠くを見つめている。
アヴィは「ふむ」と顎に手をやった。
「あのくらい、私にもできます」
「おい、無理すんな」
「隣に並んで同じポーズをします。私が醸し出すクールビューティーを感じてください」
「………………おう」
もう何がしたいのか分からない。
渋々了承すると、アヴィはディアンがいる方へ歩き出した。その後ろ姿をジト目で見送るパルグル。
ディアンの隣に並んでしまっては、アヴィのなけなしのクールビューティーが廃れてしまう。伝えてやろうかと思ったが、面倒なので好きにやらせることにした。
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