51人が本棚に入れています
本棚に追加
「おひさ〜。元気にしてた?」
うんこ疑惑をかけられている悪魔がヒラヒラと右手を振っていた。
「よぉビル。長っげーうんこだったな?」
「野糞ですか? ちゃんと土かけました?」
パルグルとアヴィはもう決めかかっている。ディアンは眉間を押さえ、深くため息をついた。
うんこの話題がページを跨いでしまった。
ビルは突然のうんこ攻めにキョトンとする様子は無く、代わりにとびきりのウインクを決めた。
「おかげさまでスッキリできたにゃん!」
"土をかける" のくだりで猫を想像したのか、両手をグーにして招き猫のようなポーズをとる。それを見たアヴィの頭の上に閃き電球が光った。
「ディーさんのクールビューティーは再現できませんでしたが、にゃんこ系なら行けるかもしれません……ところで私って綺麗系ですか? 可愛い系ですか?」
「アホ1択だよ。何を目指してんだお前は」
あしらうように答えたパルグルに、アヴィは不服な顔をする。
「アホは貴方の方でしょう。選択肢に無いものを答えないでくれます?」
「はあ? そんなに気になるなら鏡でも見とけ」
「フッ……忘れたんですか? 私、鏡に映らないんですよ!」
「威張って言うことじゃねーだろ」
ドヤ顔するアヴィに、疲れた表情をするパルグル。彼らの言い合いが続く中、ディアンの視線はレイトの方へ戻っていた。
ここでやる事はもう終わったはず。あとは引き返すだけだ。しかし、レイトはずっとマスターの横で蹲っている。本当に腹を下しているだけなら引きずってでも帰ってやるのだが――
「ディーくん。レイくん待ち?」
ディアンの視界にビルの顔がひょっこりと現れた。いつの間にか隣に並んでおり、首を傾げながら薄ら笑いを浮かべ、顔を覗き込んでくる。
「……ええ」
短く返事をし、ビルから視線を逸らした。ビルは「ふーん」と納得したような反応をしていたが、コロリと表情を変えて、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ、おれが連れてきてあげる!」
「待って」
嬉々として歩き出すビルの腕を慌てて掴むディアン。
「アンタが行くと鬱陶しいからやめて」
「シツレーだなあ。ちょっとツンツンするだけだよ」
「それが鬱陶しいのよ」
ディアンの指摘が気に障ったのか、ビルは頬を膨らませて抗議する。
「じゃあ、このまま黙って待つ気? 早く帰りたいよ~」
「先に帰ればいいじゃない……」
ビルの事は注意深く見張っていたので、これまでだったら野放しになるような事は許容しなかったのだが、事情が変わりある程度なら自由な行動を容認することにしている。だから彼を先に帰すのは、さほど問題では無い。そもそもビルがこちらに合わせて待つ必要は無いはずだ。
訝しげな眼差しを向けるディアンに、ビルは目をうるうるさせて上目遣いをした。
「おれはただ……レイくんと一緒に帰りたいだけなのに」
きゅるるんとした表情でディアンを見つめる。ディアンは顔をしかめ、小さく舌打ちをした。
「顔がうるさい。胸焼けしそう」
「んー。それって褒めてる?」
「褒めてな……るわよ」
「え、どっち?」
考えるより先に口が否定し始めていたが肯定しておいた方がビルがうるさくならないと思い訂正したものの、混乱を生む結果となった。戸惑いながら真相を尋ねてくるビルは、じわじわとうるさい。
ディアンは強制的にビルから意識を逸らすべく、レイトの事を考えるのに専念した。
最初のコメントを投稿しよう!