レイトの告白

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 このままレイトが動き出すのをずっと待つ気はないが、本人の感情の整理ができていなければ、こちらが声をかけたところで動いてくれるとも限らない。  それと、死体を隔離(かくり)した時に張った壁状の結界は、こちらからは透けて見えるのだが、レイトの方からは不透明で見えないようにしてある。これは死体たちの惨劇(さんげき)を見せないために施したもので、中はまだ酷い有様だ。なので、このまま結界を解くわけにはいかない。  とはいえ、レイトがこちらの姿を視認できるようにはしておこう。  ディアンが結界を通り抜けようと歩き出すと、少し遅れてビルが隣にやってきた。ディアンと足並みを揃え、また顔を覗き込んでくる。  ビルは不貞腐れたような渋い顔をしていた。 「よく考えたら "顔がうるさい" って褒めてないよね?」  まださっきの話をしているのか。  ディアンは露骨に気だるげな表情を見せ、無視を決め込む。 「てゆーか胸やけって、ちょっとオエッてなるやつだよね? 全然褒めてないじゃん!」  ディアンを見上げながらプンスコ怒るビルと、"うるさいから黙ってくれ" と訴えるような顔をするディアン。2人は歩き続け、そのまま結界を通り抜けた。 「ディーくん、無視は良くないよ! 謝るか言い訳するかして!」  痺れを切らしたビルが、ディアンの腕をツンツンし始めた。ツンツンの威力は回数を重ねるごとに強くなっていく。  プツン。と、ディアンの中で何かが切れる音がした。  ディアンが足を止めると、ビルもワンテンポ遅れて足を止めたが、ディアンを睨みながら腕をツンツンし続けている。 「ねえ! さっきから! 無視! しないで――」  言葉を区切りながら強く(つつ)いていたビルだったが、ディアンに突然指を掴まれると、声を詰まらせた。咄嗟(とっさ)に手を払おうとするが、ガッチリと握られて逃げられない。成す術がないその指は、手の甲へ近づくようゆっくりと曲げられていく。  ディアンは握っている指に力を入れながら、ビルに冷ややかな目を向けた。 「いい加減にしろって言ってんだろ」 「()たたたたた今初めて聞いたよ!!!」  雑な口調とドスの利いた声で(すご)むディアンに、正論を訴えるビル。しかし、指の痛みはどんどん増していく。 「あ"あああああああ!!! ギブ、ギブ!!!」  ビルは(わめ)きながら、空いている手でディアンの顔面に(こぶし)を突き出す。しかしその拳はディアンの顔に届く前に、手のひらで簡単に受け止められた。続けて股間を狙って蹴り上げるが、スルリとかわされ不発に終わる。 「危な……アタシのこと暴漢か何かと間違えてんの?」 「自覚ないの!? 暴漢の(かがみ)だよ!!!」  絶体絶命大ピンチのビル。  どう足掻(あが)いても逃れられないと悟り、とうとう謝り倒すことにした。しかし、いくら謝罪の言葉を並べてもディアンが手を止めてくれる気配は無い。  ビルの人差し指がサヨナラする寸前、横から誰かの手が伸びてきて、ディアンの手首を引いた。ディアンはその手の持ち主を横目で確認し、目を丸くする。  ディアンの手首を掴んでいるのは、顔を隠すように(うつむ)くレイトだった。 「来て」  呟くような声で話しかけるとクルリと背を向け、ディアンの手を引っ張りながら歩き出した。急な展開でレイトにかける言葉が見つからず、されるがままに付いていくディアン。その拍子にビルの指がディアンの手から離れ、彼の人差し指は事なきを得た。  取り残されたビルは死にかけていた指を優しく握りながら、離れていく2人へ視線をやった。ディアンの後ろ姿に向かい、憎しみを込めて「べー!」と思いきり舌を出す。舌を引っ込めて満足げな笑みを浮かべると、死体が隔離されている場所へテクテクと戻っていった。
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