レイトの告白

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 ディアンは戸惑いを覚えながら、レイトに手を引かれていた。隔離した死体やマスターの死体から離れ、部屋の(すみ)に移動したところで歩みを止める。  レイトはディアンの手首から手を離し、振り返った。  向かい合わせになるが、レイトは依然(いぜん)として顔を伏せており、何も話さない。 「……どうしたの?」  ディアンは声色に気を付けながら、慎重に口を開いた。少し間をおいて、レイトが答える。 「話さないといけないと思って。魂を集めてる理由(わけ)」  "タイムリミットは今日"  自分が口にしたあの約束を、こんな状況でも果たそうとしている。レイトの声は酷く落ち着いていた。無理をさせているかもしれない。かと言って、ここで「レイトが落ち着いた時でいい」なんて返事をしてしまっては、打ち明けようとする彼の決心を無駄にするだろうし、次の機会がいつになるかわからない。  ディアンはその場で腰を下ろし、壁に背をあずけて胡坐(あぐら)を組んだ。 「立ちながらでもいいけど、座ったら?」  左手で隣の地面をポンポンと叩くディアン。レイトは無言でそこに近づくと、ディアンと横並びになるよう腰を下ろし、膝を抱えて座った。  2人の間に沈黙が流れる。  視界の片隅にマスターの死体がある以外、何も無い。  ディアンは、天窓を通して見える夜空をボーっと眺めていた。 「悪い。何から話せばいいか考えてる」  隣から、気まずそうなレイトの声が聞こえた。レイトを横目で見るが、ずっと下を向いたままで表情がうかがえない。思えば、さっき自分が座り込んだ時が覗き込むチャンスだった。 「構わないわよ。一晩くらいなら待ってあげる」 「……寛容(かんよう)だな」 「あら、元からだけど?」  さも当然のように答え、話を続ける。 「でも、ここに長居しない方がいいわね。早く帰らないと……門番の人が心配するんじゃない?」  「ユキが心配する」と言いかけて思いとどまり、門番に変えた。  それと、心配されてなくても、遅くなる前に街へ戻った方がいい。  認識阻害を付与した結界でこの建物全体を囲えば、他の誰かに見つかることは無い。しかし、後からここに来た自分たちはビルの案内で裏道を使って来たが、レイトは正門を通っている。街に戻らないと、レイトの安否確認が行われるかもしれない。その際に自分たちの不在を知られてしまうと、正門を通っていないことを怪しまれる。  昨日宿に訪れたのは真夜中だったが、特に何か対応されることはなかった。そう考えると、時間の有余(ゆうよ)はまだある。ある程度はレイトのペースに合わせても大丈夫だろう。  ディアンは、レイトの言葉を待つことにした。 「その…………」  このまま話し続けたら、声が震えてしまう。  レイトは一度言葉を切り、深呼吸をひとつしてから話を切り出す。 「父さんと母さんを取り返すために……人間の魂がいる」  感情が乗らないよう、淡々と声を出した。 「取り返す? 捕らわれてるってこと?」  その表現が適切なのか、わからない。  ディアンの視線を感じながらも、どう答えようか考えあぐねて、言葉が出てこなくなってしまった。 「何があったのか、詳しく話せる?」  心配そうに声をかけるディアンに、レイトは静かに頷いた。  レイトの脳裏(のうり)には、悪夢が始まった日の出来事が描かれていた。
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