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――およそ1年前に遡る。
都市や他の集落から離れた土地に、50人ほどがこぢんまりと暮らす小さな村があった。村人たちは野菜や果物を栽培したり、複数人で集まり森へ狩りに行ったりと、一丸となって連携し、ある程度自給自足していた。
どこで嗅ぎつけたのか、月に1度か2度、十数体のゴブリンが村を襲いに来る事があった。ゴブリンは魔物の中ではかなり弱い部類に入るが、魔力を持っている分、人間を脅かすほどの腕力がある。
しかし村人たちには、力を合わせて奴らを返り討ちにできるほどの団結力と強さがあった。
その日も村人たちは武器や農具を持ち寄り、協力し合って、なんとかゴブリンを撃退。その場の全員が、去っていく敵を睨みつけている中、村人たちの中でも一際活躍していた青年が、遠くを見ながら小さくため息をついた。
「2度と来るんじゃねーぞー……って、前にも言ったな。言葉通じねーのかな?」
遠くを見ながら呟いた青年――レイトが、意気揚々と黒いハルバードを担いだ。その隣にもう1人、年の近い男子が立っていた。彼はレイトの脇を肘で小突く。
「そんなこと言うなら殺しちゃえよ。お前ならサクッとやれるだろ」
「殺したら死体の後処理しなきゃならねーじゃん。あと臭い」
「またここに来られるよりマシだろうが」
「そうなんだけど……なんか後味悪くね?」
「なーにが後味だよ。俺、お前がサイコ野郎なの知ってるからな? この前、ゴブリンの腕斬り落としながら笑ってただろ?」
「いろいろ訂正させろ。あれは手元が狂ったせいで斬り落とすつもりなんて無かったし、斬った感触が気持ち悪すぎて、動揺のあまり思わず謝っちまったんだよ」
「愉快犯みたいなノリだったけど、あれって謝ってたの? つーか "手元が狂った" で済ませようとするのヤバいな…………えっ、お前ヤバいな?」
「さっきから酷いな。俺に恨みでもあんの?」
友人の辛辣な物言いに、苦笑いするレイト。
それを知ってか知らずか、友人は「まあ、それはさて置き」と、レイトが担いでいるハルバードに目をやる。
「その武器、かっこいいな。使ってる人はアホだけど」
「間髪入れずに落とすな。もう少しぬか喜びさせろ」
「で、どこで手に入れたの? その武器」
「へ?」
友人の毒大量放出に気を取られていたレイトは言葉に詰まった。レイトの目が泳ぐ。
「あ、ああ……なんか貰ったんだよ」
「どこでって聞いてんだけど」
ジッと見つめてくる友人。レイトはもう笑って誤魔化すしかないと悟り、頬をヒクヒクさせながら視線を逸らしている。何も答えないレイトに、友人はため息をついた。
「またか? また余所者の所に行ったんだろ?」
「ハハハ…………あー、ちょっくら出かけてくる」
レイトがニコニコしながら踵を返すと、腕を掴まれ引き留められた。恐る恐る振り返ると、友人が真剣な表情でこちらを見ている。
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