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友人宅の庭の草むしりを手伝った後、村を出たレイトは左肩にハルバードを担ぎ、1人で街道を歩いていた。
そう、ジュースの誘惑に打ち勝ったのだ。
森の入り口を通り過ぎ、しばらく奥へ進んで足を止める。目の前にある大木は、幅1メートルほどで、空に向かって真っ直ぐ伸びている。
「今いる?」
大木を真正面に見据えて少し待つと、大木の一部、地面から高さ2メートルほどに及んだ部分が、沼のように波打った。波紋は足元から広がっており、大木の中から靴のつま先が出てきていた。その足がこちら側に踏み出してくると同時に、人型のシルエットが大木の中から現れる。もう片方の足が踏み出してきた時には、その姿が露となった。
「やあ」
穏やかな低い声。見た目20代半ばの男が、レイトに優しい目つきを向け、軽く手を振った。紫色のショートヘアは緩くパーマがかかっている。
レイトは担いでいるハルバードの柄を、右手でトントンと叩いた。
「これ、調子いい。カッコいいって言われた」
「役に立ってるなら良かった。そんな重たい武器、僕が持ってても使えないから」
「脆弱だもんな、お前」
「言ってくれるね……あ、そうだ。渡したい物があるんだよ」
男は困ったように苦笑いしていたが、何かを思い出した表情になると、右ポケットに手を入れた。
「ちょっと待ってね」
手探りでポケットの中をまさぐったり、「あった、あった」と明るい表情を見せたり、男の一挙手一投足を、レイトはジッと見つめていた。
「なあ。それって、もしかして魔道具?」
レイトは密かに胸を弾ませながら尋ねた。
「ん? ああ、そうだよ」
男はポケットから手を出した。小さい物を握りしめているのか、手の中に収まっているようだ。
魔道具とは魔力を源にして作用する道具の事を差し、用途の数だけ種類がある。さっき男が大木から現れたのは、魔道具を使って部屋の出入り口を繋げることで成せる、らしい。
男の両親は魔物に関する研究をしており、魔物たちから身を守るための対策も研究対象としている。そのため、できるだけ魔道具や武器を集めるようにしていて、そういったもので家が埋め尽くされているんだとか。
これらの話は聞いただけに過ぎないので、実際に男の両親に会ったことも、家に行ったこともない。「危険な研究をしているから、なるべく近づかない方がいい」と、いつも断られてしまう。
男は取り出したものを確かめるように、自分の手元を見ていた。続けて、レイトへ視線を移す。
「せっかくだから、これも……」
お互いに目が合った途端、男の言葉が途切れた。口が半開きになっている。
レイトは「どうした?」と声をかけようとしたが、それより先にクスクスと笑う声が聞こえた。レイトの目つきが、怪しいものを見る目に変わる。
「何だよ、急に。気持ち悪りーな」
ストレートに悪口を言ったはずなのに、男は口を押さえて笑いを零している。
「フフッ……顔が正直だなと思ってね」
「え?」
「魔道具を見せる時、いつもそういう顔してるよ。 "待ちきれない" って、顔に書いてある」
自分がどんな顔をしていたか分からないが、面白がって指摘されるのは恥ずかしい。
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